2012 Fiscal Year Annual Research Report
種々の環状高分子のトポロジー効果と分子鎖の拡がりの相関
Project/Area Number |
22740281
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
鈴木 次郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センタ―, 講師 (40415047)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 環状高分子 / シミュレーション / 拡がり / θ状態 / トポロジー |
Research Abstract |
本研究は、分子末端を持たず、もっとも単純で美しい形の高分子である環状高分子の物性について理論とシミュレーションで知見を得ることを目的とする。2011年度は、もっとも単純なトポロジーを持つtrivial-ringの希薄溶液中でのθ温度を議論したが、2012年度はtrivial-ringをより詳細に議論するだけでなく、3_1, 5_1-knotted-ringのθ温度についてシミュレーションの計算を行った。その結果、リングポリマーのトポロジー効果とθ温度の相関について議論を行い、高分子科学において重要な物理量である「θ温度」が通常のlinearポリマーと異なった視点を持つべきであると、論文で報告を行った。 本来ではθ状態(θ温度)とはリングポリマーのトポロジーを固定できないことが定義である。一方で実在の高分子のトポロジーは変化し得ない。そこで上記論文では、リングポリマーのトポロジーを固定した上で、θ温度を定義するという従来の概念とは異なる視点でシミュレーションを行った。この成果はソフトマター分野だけでなく基礎物理/統計力学として重要な概念であるランダムウォークに関して重要な指針を与えたことに意義がある。 上記と平行してより効率的なシミュレーションアルゴリズムの研究開発も行っている。それは、Face-centered cubic lattice (FCC)格子上でシミュレーションをする方法である。Trans Locationのアルゴリズムの組み込みを行うことで、よりフレキシブルな鎖の記述ができるようになり、この方法を使うことで上記の研究成果を得た。以上のように、本研究課題は計画に沿って順調に遂行されており、論文発表も行われ、成果を上げている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来のθ状態のリングポリマーの拡がりやコンフォメーションの議論は、Phantom-Chainモデルでトポロジーを固定しない状態でシミュレーションを実行し、トポロジーし、拡がりの平均を求めていた。本研究では、排除体積を持つ鎖を使って、かつ、温度に依存する引力を与えることで排除体積効果を遮蔽したことで、Phantom-Chainモデルを使わないでθ状態を実現するシミュレータを設計した。その結果、トポロジーを固定(すり抜けが起こらない)かつ、酔歩統計に従うリングポリマーのシミュレーションを行えるようになった。これは、実在のリングポリマーのふるまいをよく記述でき、高分子だけでなく、ソフトマターの基礎物理の理解に重要な知見を得た。(論文発表) 加えて、シミュレーションアルゴリズムに関しても、面心立方格子を用いた方法を採用することで、より自然で効率性の高い計算方法として、高い評価を得ている。 このように、新規なサイエンスを展開するに当たって、必要な計算アルゴリズムを開発し論文発表を行ったため、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度に論文発表を行った内容は、リングポリマーの回転半径を求めている。この物理量はポリマーの拡がりの平均値を与えるものである。2013年度以降は、コンフォメーションについて考察を行う(すでに開始をしている)。具体的には、孤立したリングポリマーの部分鎖の末端間距離に注目し、この距離の分布のヒストグラムを得る。 θ温度の統計を与える閉じたランダムウォークの部分鎖でもガウス分布を与えることは既知であるが、これはトポロジーが固定されない。従って、シミュレータから得たリングポリマーの部分鎖のヒストグラムとガウス分布を比較すれば、リングポリマーのトポロジー効果がいかなるものであるかを詳細に議論する予定である。 また、2013年度は本課題の最終年度である。リングポリマーのトポロジーについての総括を行う予定である。
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