2011 Fiscal Year Annual Research Report
液体の水素結合は価電子励起状態にどのような変化を与えるか
Project/Area Number |
22750019
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
森澤 勇介 関西学院大学, 理工学研究科, 博士研究員 (60510021)
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Keywords | 減衰全反射遠紫外分光法 / 電子励起状態 / 凝縮相 / 水素結合 |
Research Abstract |
本研究の目的は、研究代表者らが開発した減衰全反射遠紫外(ATR-FUV)分光法を用いて水素結合が価電子励起状態にどのような変化を与えるかを明らかにすることである。液体の価電子励起状態を観測するのに最適なATR-FUV法を用いて、特に冷却状態(~-100℃)における分子の電子スペクトルを観測する。昨年度、冷媒循環式低温用温度制御ATR-FUVプローブの設計・製作を行った。これを用いて、アセトンの低温(~-70℃)における温度依存ATR-FUVスペクトル(145-200nm)を測定した。その結果、n-3s遷移において、スペクトルが高エネルギーシフトすることが観測された。この変化を説明するために、量子化学計算を行った。それにより、アセトン分子間の距離が近づくことで遷移エネルギーが高エネルギーにシフトすることが確認された。また計算結果から、このシフトは終状態である3sRydberg軌道の軌道エネルギーが分子間距離近接に伴って少ししか高エネルギーシフトしないのに対し、始状態となるn軌道は分子間距離が近づくと大きく低エネルギーにシフトするためであることが分かった。このことから、液体アセトンで観測された極低温でのスペクトルの変化は、極低温において分子の密度が上昇し、分子間距離が近づき、遷移の始状態であるn軌道が低エネルギーシフトした結果、遷移エネルギーが高エネルギーシフトしたと考えられる。また、当初計画していた水にみられるOH…O水素結合よりも弱いCH…O=C水素結合の存在により、ATR-FUVスペクトルに現れるRydberg遷移が鋭敏な変化を示すことを明らかにした。 また、同じ低温用ATR-FUVプローブを用いて直鎖アルカンの低温における相転移によるスペクトル変化について研究を行った。C_<14>H_<30>について室温から融点以下となる-20℃まで冷却しATR-FUVスペクトル(145-300nm)を測定した。室温では150nm付近に見られたピークが低温では大きく減少し、一方で200,240,260nmに新たなピークが出現した。このスペクトル変化の原因をさぐるために量子化学計算をおこなった。アルカン同士を3Aまで近接させたダイマーにおいて低温で観測されたのと同様の遷移が算出された。またその原因はアルカンの価電子となるσ電子が近接することによって相互作用し、軌道エネルギーを増大させるものがあり、それに伴って遷移エネルギーが減少したと考えられた。
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