Research Abstract |
ミクロスケール電気泳動-質量分析法(CE/MCE-MS)へのトランジェント-トラッピング法の適用と,生体試料分析への展開をめざし,(1)MS検出に適用可能なオンライン試料前処理法の開発(2)電気浸透流(EOF)抑制下でのCE/MCE-MS分析条件の最適化とトランジェント-トラッピング法との結合による高感度化,(3)分離モードの拡張についてそれぞれ検討を行った。 (1)可能な限り簡便な生体試料分析を実現するために,CE/MCE-MSにおける試料の前処理について検討した。マイクロチップ電気泳動(MCE)において,界面活性剤を含む泳動液で満たされた分離チャネルにリン酸緩衝生理食塩水で希釈した血液を導入したところ,赤血球は界面活性剤により溶解され,有色成分が泳動する様子が明視野にて観察された。このことから,トランジェント-トラッピング法で部分的に注入するミセル溶液ゾーンを用いてキャピラリー内で溶血することで,血液試料の直接導入が可能な電気泳動分析法の実現が示唆された。 (2)生体試料の非特異的吸着を抑制するためにキャピラリー内表面を親水性かつ中性のポリマーで修飾することで,ミクロスケール電気泳動分析における送液の駆動力であるEOFも抑制される。しかしながら,0.5psi程度のわずかな圧力補助によって,安定なCE-MS分析が可能であることを見出した。また,MCEについても,EOF抑制条件下での安定なESIを実現するため,シース液用流路を分離チャネル末端に配置したMCE-ES1を開発した。 続いて,CE/MCE分析法へのトランジェント-トラッピング法の適用について検討した。MS装置への界面活性剤の混入による装置の汚染・感度低下を防ぐために,ミセル溶液ゾーンの見かけの移動速度が負となるような実験条件を模索した。その結果,低pH条件において,界面活性剤のMSへの混入防止と,トランジェント-トラッピングによる濃度感度および分離能の向上が可能であることが,それぞれ示された。これをステロイド類の分析に適用したところ,120-340倍の高感度化と分離能の向上が同時に達成された。 (3)生体内においてタンパク質などが有する特異的認識能に基づく相互作用を利用して試料の選択的分離を行うアフィニティCE分析をMS検出およびトランジェント-トラッピング法と組み合わせるために,アルギン酸とカルシウムの混合によるヒドロゲル化を利用した新規アフィニティ分子固定化法を開発した。本技術により,不揮発性のアフィニティリガンドのMS装置への混入による装置汚染や,試料のイオン化効率の低下を抑制可能となった。
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