2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22750110
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 倫太郎 京都大学, 化学研究所, 助教 (80563840)
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Keywords | 高分子薄膜 / ガラス転移 / 中性子散乱 |
Research Abstract |
高分子薄膜の物性はバルク状態と大きく異なることが知られているが、近年の精力的な研究から高分子薄膜の特異物性は膜厚低下に伴う空間拘束による影響ではなくむしろ高分子薄膜の表面・界面の特異性に由来すると現段階では考えられている。そのため、真に高分子薄膜の物性を理解する或いは制御を試みるためには言わば高分子薄膜の単一の物性値ではなく、高分子薄膜内部においてどのようにガラス転移温度などの物性値が分布するか或いはどの程度表面・界面効果が競合するかを詳細に調べる必要がある。そこで我々は高分子薄膜内部におけるガラス転移温度及び熱膨張係数がどのように分布しているかを明らかにするため重水素化ポリスチレンと軽水素化ポリスチレンを交互積層した薄膜を用いて中性子反射率測定法により調べた。その結果、高分子薄膜の表面から内部にかけて連続的に通常のバルクよりも低い値を有する表面ガラス転移温度からバルクのガラス転移温度へと変化した。また非常に興味深いことにシリコン基板上に直接成膜されたポリスチレン層は測定温度範囲内では確認されないほど極めて高いガラス転移温度を有することが明らかとなった。一方、熱膨張係数に関しては極めて小さい熱膨張係数或いはゼロ熱膨張係数が確認された基板直上層を除いて明確な薄膜内部における分布は確認されなかった。この得られた結果より高分子薄膜のガラス転移温度は主に表面の影響を、また熱膨張係数に関しては界面の影響を強く受けることが分かった。更にこの結果から、X線反射率測定等から評価されたポリスチレン薄膜のガラス転移温度及び熱膨張係数の膜厚低下に伴う低下の原因を積層薄膜と言う観点から明らかにすることに成功した。結論として、基板との相互作用が比較的弱い高分子であっても高分子薄膜に置いて表面・界面の両効果は決して無視できない因子と言える。
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