2012 Fiscal Year Annual Research Report
ハミルトン偏微分方程式に対する新しいエネルギー保存数値解法と離散解析力学の構築
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22760060
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷口 隆晴 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (10396822)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 数理工学 / 有限差分法 / 対称性 / 保存則 / 解析力学 |
Research Abstract |
平成24年度は,23年度までに開発したラグランジュ力学的エネルギー保存型数値解法について,局所理論の開発,無反射境界条件への応用などを行った. まず,局所理論であるが,これは,以前,学会発表の際にCFL条件によるステップ幅への制限を緩めることができないかという指摘を受けたことに応えようとしたものである.これまでの理論では,大域的エネルギーを保存させるため,時間刻み幅が計算に利用するメッシュ全体で等しく設定されている必要があった.しかし,実際にシミュレーションを行う際には計算対象領域の位置によって,変化が激しく,時間刻み幅を小さくしなければならない場所や,逆に,変化が緩く,時間刻み幅を大きくとれる場所が混在する.そのような場合,上記のように,時間刻み幅を一定にしなくてはならないというのは,厳しい制約となってしまう.これに対し,24年度の研究では,局所的なエネルギー保存則を保つ数値解法を導出するための方法論を作り上げ,さらに,同様の理論が運動量保存型数値解法についても適用できることを示した.その結果,この方法で導かれた数値解法は,大域的保存則と同時に局所的保存則を満たすことが示された.したがって,メッシュのある位置における局所的保存則が満たされれば十分である場合には,その他の場所ではより計算コストの低い方法をとることができるようになった.これを利用すれば,上記のようなステップ幅への制限を緩めることができると期待される. その他に,局所理論の無反射境界条件への応用を行った.無反射境界条件は,境界からの反射波を防ぐ境界条件であり,波動シミュレーションでは必須の技術である.無反射境界条件は波動伝搬理論に基づいた理論的な境界条件として導出されるが,その離散化方法によって最終的な性能は異なる.これに対し,本研究で得られた局所理論を応用し,エネルギー挙動を考慮した境界条件の離散化法を提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していたとおり Klein-Gordon 方程式に対して対称性を用いてエネルギー保存型数値解法を導出するというアイデアを,一般の Euler-Lagrange 方程式へ拡張することには成功し,新しい枠組みと言ってよい形にまとまってきている. また,この新しい方法は,運動量保存スキームへの応用,楕円型方程式への拡張,局所理論の構築とその無反射境界条件への応用など,当初は予想していなかった多くの新しい応用を作り出した.こういった面では,当初の計画以上に進展していると言える. 一方,離散ルジャンドル変換については,まだ,決定的なものが得られておらず,一部の方程式についてそのようなものを構築することができることを確認したにとどまっている.これは,離散ルジャンドル変換として使える変換が一意ではなく,今回の枠組みにもっとも適したものを選ぶことが難しいということが一つの理由である.また,もう一つの理由として,学会等で発表した際,離散ルジャンドル変換といった理論的な話題よりも,CFL条件への対応などといった,工学的な発展に関する質問・要望が多かったことが挙げられる.そのため,理論的な解析よりも,まず,実用性を高めるための研究が望まれ,優先されるべきであると考えたため,そのような話題に優先的に取り組んだ. 以上のように,理論的な側面についてはもう少し取り組む必要があるが,理論の適用範囲の拡張や工学的な応用については予想していなかった多くの応用が生まれ著しく進展している.そのため,これらを総合的に考えればおおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては,一つは当初計画していた離散ルジャンドル変換の構築である.もう一つは,やはり,学会等で指摘されていた有限要素法への適用である. 現在の理論は差分法を中心としているが,実際の応用を考えると,様々なメッシュ・要素が利用可能である,有限要素法を基礎とした枠組みの構築が望まれる.特に,近年,発展している離散外微分解析の理論は,本研究と相性が良いはずであるため,これらを融合させることが重要と思われる.また,これを達成することで,力学的にも深い理解が得られるはずであるため,自然な離散ルジャンドル変換の構築にもつながると予想される. 離散外微分解析の理論は de Rham 複体と呼ばれる幾何学的な構造を,有限要素法でも再現するものである.これによって,偏微分方程式の適切性を示す,幾何学的なテクニックを有限要素法に応用することができ,安定かつ適合的な有限要素スキームを導出することができるようになる.また,de Rham 複体は,本研究の最も基本的なアイデアである Noether の定理とも関わっていることが知られている.具体的には,de Rham 複体を拡張した変分複体というものを考えると,方程式のもつ保存則について理解できるようになる.この理論は有限要素法にもすでに適用されているため,それと本研究の関係を明らかにできれば,本研究の数理物理学的な理解も深まると思われる. しかし,一方で,離散外微分解析は,まだ,線形楕円型方程式が主な対象であり,本研究が対象としているような非線形発展方程式に対する応用の研究は少ない.そこで,まずは,離散外微分解析の理論を非線形偏微分方程式や発展方程式に拡張することに取り組む.
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Research Products
(7 results)