Research Abstract |
前年度には,転位の長距離力を直接的に導入することによって,マイクロ・ナノ領域の解析に適用可能な塑性理論を構築した.また,理論の妥当性を示すために,ラメラ複合材料モデルの界面に転位が拘束された問題を解析するとともに,ラメラ複合材料に発現する塑性寸法効果を解析した.この解析では,弾性層の厚さと弾塑性層間のすべり面のずれをパラメータとして考え,巨視的応力-ひずみ関係や転位の作る長距離力の分布を調べた.この結果として,弾性層が数十ナノメータの場合には,転位の長距離力は隣接する弾塑性層内に強く影響を及ぼすことがわかった.また,この長距離力は,転位の堆積方向に強い指向性を有しており,隣接する弾塑性層間のすべり面のずれが小さい場合には,転位源に作用する背応力を弱め,巨視的なひずみ硬化を抑制する役割を果たすことがわかった.しかしながら,この結論は,すべての弾塑性層が同じ単一すべり系を有し,結晶方位差がない場合の結果によるものであり,より一般的な場合についてはまだ明らかではなかった.そこで今年度の研究では,隣接する弾塑性層間において結晶方位が異なる場合の解析を行い,その影響をミクロとマクロの双方の観点から考察した.以下に知見を述べる. (1)結晶方位差が小さい場合(0度-15度)には,結晶方位差がない場合と同様にして,すべり面ずれが小さくなるにしたがってひずみ硬化は減少する傾向を示す. (2)一方,結晶方位差が大きい場合(15度-30度)には,結晶方位差が小さいときのようにはっきりとした特徴が現れず,ひずみ硬化挙動にはすべり面ずれの影響はほとんど現れない. (3)したがって,長距離力の果たす役割は,結晶方位差に依存しで変化し,今回の解析では明確に同定することはできなかった.このことは今後の課題として引き続いて研究を進めたい.
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