Research Abstract |
層状ペロフスカイト構造をもつルテニウム酸化物は,スピン三重項超伝導や遍歴メタ磁性など,多様な基底状態に富む.物性を担うルテニウム(Ru)-酸素(O)から構成される平面(RuO_2面)の歪みや傾きが縮退した4d軌道と密接に関連していることが,これら多様な物性の本質である.今回,われわれはRuO_2面内に強磁性的相関をもつCa_3Ru_2O_7に着目した.これまで,この純良単結晶を用い,量子振動測定や角度分解光電子分光法により電子構造を決定した.つまり,この系が結晶構造の斜方晶性に起因する低キャリア性を有することを見出した.今回,RuO_2面の歪みと基底状態との関わりを調べた.具体的には,SrTiO_3基板上にCa_3Ru_2O_7薄膜をパルスレーザー法により作製し,その評価と輸送測定をおこなった.現在の最適化した条件下で,c軸方向に15nm(8ユニットセルに相当)からおよそ1000nmまでの様々な膜厚をもつ単結晶薄膜を作製できたことが電子顕微鏡にてわかった.ラマン散乱実験から,Ca_3Ru_2O_7薄膜の対称性はバルク単結晶のそれとは異なることがわかり,SrTiO_3基板の高対称性に影響されていることを示唆している.輸送測定では,その温度依存性が室温以下で半導体的振る舞いとなり,薄膜化になるほどその半導体的振る舞いが顕著になった.特に膜厚15nmの薄膜では,その温度依存性から,単純な熱活性型電気伝導のモデルから,約0.1eV程度のエネルギーギャップを持つ.最近,ナノレベルでの薄膜化誘起の半導体的電気伝導を示す物質が数多く見られている.本研究で特徴的なのは,Ca_3Ru_2O_7薄膜の半導体的振る舞いは,結晶の対称性も考慮する必要があることである.つまり,薄膜化により,より高対称性となった結果,本来の低キャリアを保証していたフェルミ面が消失し,電気抵抗が半導体的振る舞いになったと理解できる.これらの結果を踏まえ,薄膜の詳細な結晶対称性と磁気相関について調べる必要がある.
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