Research Abstract |
本年度の研究では,実用化が期待されるNi-Cr-W合金の示す特異な塑性挙動の発現機構,特に単範囲規則構造(SRO)が塑性挙動へ与える寄与を明らかにするため,Ni-24.0Cr-8.OW(at.%)三元系合金に加え,Ni-8.0(at.%)W二元系合金の単結晶を育成し,その塑性挙動評価を行った.(111)[101]単一すべりが発現する[149]を荷重軸とした圧縮試験を行ったところ,Ni-Cr-W合金では降伏応力は,室温から300℃まで急激に低下するものの,その後ほぼ一定値を示した後,1000℃にてわずかに上昇する,いわゆる異常強化の発現を示し,また500℃以上の温度域において,応力ひずみ曲線上に顕著なセレーションが発現した.一方,Ni-W合金においては,その降伏応力の絶対値は全温度域でNi-Cr-Wと比較して低いものの,その変化の温度依存性はかなり類似した挙動を示し,やはり1000℃にてわずかな異常強化を示した.しかし両者の大きな違いとして,Ni-W合金ではセレーションの発現開始温度が約700℃以上と,Ni-Cr-W合金に比べかなり高温側へとシフトした.このことはNi-Cr-W合金でみられる300℃付近からのセレーションはCrに,一方700℃以上のものはWに由来しており,両者の重畳により大幅な高温強度上昇が生じていることが明らかとなった.このセレーション発現温度は,Ni固溶体相と平行する化合物相の熱的安定性の上限温度とかなり良く対応しており,このことは申請者が予測した通り,本合金系における高温強化,異常強化発現が,SROの存在と密接に関連することを強く示唆する結果といえる.さらに低温変形挙動についても,流動応力のひずみ速度感受性がNi-Cr-W三元系ではNi-Wに比べ強い依存性を示す,すなわちより小さな活性化体積を示すことが明らかとなり,SROの発達が転位運動に対するより強い障害となることが,マクロな観点からも実証された.
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