2011 Fiscal Year Annual Research Report
送粉動物の認知学習および空間利用行動から見た花色変化の適応的意義
Project/Area Number |
22770012
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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Keywords | 種間関係 / 進化生態 / 行動生態 / マルハナバチ / 花色変化 |
Research Abstract |
昨年度からの2年間におよぶ調査で、植物園内のハコネウツギ(花が咲き終える前に色を変える)とタニウツギ(色を変えない)の両種の花は、いずれも開花後4日が経過すると著しく蜜生産を低下させることがわかった。また、蜜生産の低下と花色変化がほぼ並行して起こるハコネウツギでは、ハナバチ類が古くて蜜を出さなくなった花を避ける一方、蜜生産が低下しても花色が変わらないタニウツギでは、ハナバチ類がどの花もほぼ同じ頻度で訪れることがわかった。これらの結果は、色を変えてポリネーターに古い花を識別する手がかりを与えるハコネウツギにたいし、タニウツギは、古い花の蜜生産を低下させてもハチに識別の手がかりを与えない「だまし」をおこなっていることを示唆する。こうした戦略のちがいが両者の送受粉パターンと種子生産にどのような差をもたらすかを調べたところ、花粉の持ち込み量はハコネウツギで圧倒的に多く、花粉制限はまったく見られなかった。一方タニウツギでは花粉の持ち込み量は最後まで低レベルにとどまり、強い花粉制限が見られた。一方、花粉の持ち去り量には両種で差は見られなかった。しかし、タニウツギにはハナバチ類の訪花が少ない分、ハエアブ類が長くとどまり花粉を多く消費し、他の株へ届いた花粉はハコネウツギよりも少なかったと考えられる。以上の成果は国際誌に発表予定である。 また、マルハナバチの訪花行動を調べるための室内実験では、採餌経験が少ない個体は延寿型(タニウツギのように古い花の寿命だけ延ばす)や変化型(ハコネウツギのように古い花の寿命を延ばして色を変える)のような大きなディスプレイをもつ株を好む傾向がある一方、経験を積んだ個体は延寿型をまったく訪れず、変化型と落花型(古い花の寿命を延ばさずに落とす)を好むようになることがわかった。よって、経験量の異なるハチ個体が入り混じって訪れる野外の植物集団では、初心者からベテランまで常に好まれる変化型が最も多くの訪問を受けることができる。この結果は、ハナバチのような学習能力の高い送粉動物がくり返し株を訪れる状況でのみ「花色変化」が進化的に有利になる、という研究代表者が考案した新しい仮説を支持するものである。以上の成果は種生物学会和文誌および原著論文として発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記した3項目(種間比較、室内実験、野外調査)のうち、野外調査をのぞいてはいずれも仮説を支持するデータを取り終え、論文を準備中である。また、野外調査については震災などの影響により当面の実施は控えざるを得なかったものの、山形大学の横山潤博士の協力を得て、福島県南部に自生するニシキウツギ(全変化型)、ベニバナニシキウツギ(部分変化型)、タニウツギ、キバナウツギ(共に一定型)などの野外集団を訪れ、今後の研究計画について一定の検討材料を得ることができた。このように、今後調査地の都合で多少の軌道修正は必要となるものの、他の2つでは期待以上の成果が得られており、全体としてみれば「当初の計画はほぼ順調に進んでいる」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
部分変化と全変化の進化条件を明らかにするための室内実験は、本年度に引き続いて申請時の計画通り遂行する。野外調査については、種間比較から新たに着想を得た仮説(花色変化はハナバチをめぐる競争が激しい環境でのみ進化的に有利になる)を検証するための計画に修正し、筑波山などの頻繁に通うことが可能な調査地の利用を検討する。さらに、最終年度はこれまでの研究成果を3本以上の論文として発表する。また、本研究に関連しておこなった別のマルハナバチ行動実験についても、早急に2本の論文にまとめて発表する。
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Research Products
(5 results)