2012 Fiscal Year Annual Research Report
送粉動物の認知学習および空間利用行動から見た花色変化の適応的意義
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22770012
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 種間関係 / 進化生態 / 行動生態 |
Research Abstract |
これまでの3年間におよぶ調査で、ハコネウツギ(花が咲き終える前に色を変える)とタニウツギ(色を変えない)の両種の花は、いずれも開花後4日が経過すると著しく蜜生産を低下させることがわかった。また、蜜生産の低下と花色変化がほぼ並行して起こるハコネウツギでは、ハナバチ類が古くて蜜を出さなくなった花を避ける一方、蜜生産が低下しても花色が変わらないタニウツギでは、ハナバチ類がどの花もほぼ同じ頻度で訪れることがわかった。これらの結果は、色を変えてポリネーターに古い花を識別する手がかりを与えるハコネウツギにたいし、タニウツギは、古い花の蜜生産を低下させてもハチに識別の手がかりを与えない「だまし」をおこなっていること、タニウツギが有利になるのはポリネーターの学習が顕著にみられず、かつ色変化の生理学的負担が大きい環境条件にかぎられるであろうことを示唆する。以上の成果は2年目までの結果を強く支持するものであり、これらをまとめて現在国際誌に投稿中である。 また、マルハナバチの訪花行動を調べるための室内実験では、採餌経験が少ない個体は延寿型(タニウツギのように古い花の寿命だけ延ばす)や変化型(ハコネウツギのように古い花の寿命を延ばして色を変える)のような大きなディスプレイをもつ株を好む傾向がある一方、経験を積んだ個体は延寿型をまったく訪れず、変化型と落花型(古い花の寿命を延ばさずに落とす)を好むようになることがわかった。よって、経験量の異なるハチ個体が入り混じって訪れる野外の植物集団では、初心者からベテランまで常に好まれる変化型が最も多くの訪問を受けることができる。この結果は、ハナバチのような学習能力の高い送粉動物がくり返し株を訪れる状況でのみ「花色変化」が進化的に有利になる、という研究代表者が考案した新しい仮説を支持するものである。以上の成果は種生物学会和文誌および原著論文として投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記した項目(種間比較、室内実験、野外調査)についてはいずれも仮説を支持するデータを取り終え、論文を投稿中である。論文掲載は予定より少し遅れているものの、来年度(最終年度)には未発表の研究成果を3本の原著論文として発表できる見通しが立っている。このように、研究成果という面では期待以上の成果が得られていること、論文発表が予定より遅れてはいるものの来年度には掲載の見込みが高いことから、全体としてみれば「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は交付の最終年度であるため、国内外の学会(INTECOL=国際生態学会および日本生態学会)、論文など成果の発表に力を入れる。また、これまでの成果を野外調査および実験によってさらに補強することにより、これら発表予定の内容を学術的に価値あるものとする。研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での大きな問題点はない。
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Research Products
(9 results)