Research Abstract |
本研究の目的は,種分化に関与する遺伝子が,ゲノム内のどのような場所に存在し,どのような形質と関連しているのかを解明することである.材料は,これまで種分化のしくみが良く調べられてきたイワワキオサムシとマヤサンオサムシを用いる.知見が蓄積している材料に対して,新しい解析手法(ゲノムスキャン)を適用することで,種分化のメカニズムを,新たな視点から,さらに深く理解することを目指すものである. 最終年度である2011年度には,前年までのサンプルとその解析結果を補強するため,(1)交雑帯における補完的なサンプル採集,(2)遺伝解析によるクライン解析,および(3)生態ニッチモデルの比較のための統計解析,を行った. クライン解析の結果からは,交尾器形態にかかわる遺伝子座(QTL)の近傍領域が,交雑帯における自然淘汰を受けていることが明らかになっていたが,これをより信頼性の高い結果とするため,解析サンプルの追加に努めた.結果はほぼ変わらず,解析した12マイクロサテライトのうち,交尾器近傍領域では7/8が有意に中立から逸脱したのに対し,そうでない領域では全てが中立的であった(0/4).さらに,中立からの逸脱の多くは方向的な淘汰によるものであり,その方向は常に種間交雑による交尾器破損によって生じるコストを低下させる方向(雄交尾器は細く短く,雌交尾器は長く)であった.このことから,交尾器形態を決める遺伝子は生殖隔離を支配する種分化遺伝子であることが示唆された. 生態ニッチモデリングの結果からは,両種の生息地選好性が分化していることが示唆されていたが,これを「ニッチ同一度テスト」と「背景類似度テスト」によって検証した.その結果,交雑帯付近においても両種の生息地選好性は分化を保っており,これがモザイク状の交雑帯構成に影響していると結論した.
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