2011 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の点光源コンパスの不安定性とその補償としての並行処理
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22770067
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
弘中 満太郎 浜松医科大学, 医学部, 助教 (70456565)
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Keywords | ナビゲーション / 定位 / 経路積算 / 太陽コンパス / 複眼 / ツチカメムシ類 / 亜社会性 / 視覚 |
Research Abstract |
ナビゲーションを行う動物の多くは,太陽コンパスに代表される,点光源を基準として方向を決定するコンパスを利用することができる.本研究課題では,1.動物の点光源コンパスの機能的制約と,2.その制約への補償,について明らかにすることで,動物の多様なナビゲーションシステムの進化背景を理解することを目的としている.本年度は,1.の点光源コンパスの機能的制約については,コンパス基準点の障害物による消失という現象に注目し,野外でのナビゲーション行動と障害物の状況について調査した.ベニツチカメムシの繁殖場所において,出巣と帰巣の採餌軌跡を地表にプロットし,その軌跡上で,一定間隔毎に全天空写真を撮影した.その結果,樹木の幹が障害物となり,特定の位置にあるキャノピーのギャップがカメムシの歩行中に一時的に消失していることが明らかになった.更に,2.の機能的制約への補償については,複数のコンパス基準の並行処理を検証する前段階として,フタボシツチカメムシのナビゲーションシステムの階層性を明らかにした.周囲に視覚目標となる構造物のない屋外の実験アリーナにて,カメムシの帰巣行動を観察した.太陽の位置を鏡で反転させた場合,帰巣の定位角度が180度転向したことから,本種は太陽を点光源コンパスの基準として利用できることがわかった.一方,実験アリーナ上にキャノピーギャップを模した人工的な覆いを提示した場合でも,正確に巣に定位することができた.太陽と人工のギャップの両方のコンパスの基準を,それぞれが別の定位方向を示すようにコンフリクトさせて提示した場合,カメムシはギャップの基準を優先させることが明らかとなった.これらの情報をもとに,複数のコンパス基準の並行処理の検証のための実験系を確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,1.動物の点光源コンパスの機能的制約と,2.その制約への補償,について明らかにすることで,動物の多様なナビゲーションシステムの進化背景を理解することを目的としている.この2つの目標のうちの1.の機能的制約に関しては,既に,コンパス基準の距離による制約と,障害物による消失という制約,というこれまでに報告されていないナビゲーションシステムの制約を明らかにした.また,2.の機能的制約への補償については,本年度までに実験系を確立できたため,来年度の検証を待つ状態にある.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である24年度は,本研究課題における最重要ポイントである,「点光源コンパスシステム内での複数のコンパス基準の並行処理能力を動物が持つか」という問題の検証に重点をおいて研究を進める.22年度の研究において,ナビゲーションを行うカメムシが,2つのコンパス基準を独立して利用している可能性を強く示唆する結果が得られている.既に,これを検証する実験系を確立しており,準備上の問題はない。本年度は,この検証結果と,これまでに明らかになった成果を取りまとめ,論文発表・学会発表を進める.
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Research Products
(1 results)