2010 Fiscal Year Annual Research Report
全生活環に基づいた小房子のう菌類分類体系再構築の試みとアナモルフ仮説の検証
Project/Area Number |
22770074
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 和明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (60431433)
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Keywords | 菌類 / 系統進化 / 分類学 |
Research Abstract |
菌界のうち最も分類学的混乱のみられる小房子のう菌類(菌界最大のグループ)について、複数の遺伝子領域に基づく分子系統樹を構築し、この系統樹に従前はほとんど利用されてこなかった無性生殖世代(アナモルフ)の形態形質情報を統合することで、アナモルフの系統的意義と全生活環(ホロモルフ)からの分類体系再編を試みる目的で本研究を行った。本年度は、白神・八甲田山地およびロシアのブナ目植物に寄生するアナモルフ菌類のAsterosporium属菌およびProsthemium属菌を重点的に採集し、計43分離菌株を得た。これらについてSSU,LSU,ITS nrDNAおよびβチューブリン遺伝子の塩基配列を取得し分子系統解析を行った。その結果、Prosthemium属の2新種が北日本のカバノキ属植物から見いだされた。Asterosporium属菌はProsthemium属(クロイボタタ綱)に類似するため混同されてきたが、フンタマカビ綱に所属する系統的に大きく異なった属であることが明らかとなった。アナモルフ属であるProsthemium属は、有性生殖の結果Pleomassaria属とよばれる有性生殖世代(テレオモルフ)を形成する。しかし菌類分類に重要とされるテレオモルフ(この場合Pleomassaria属)の形態は、何れの種でも類似しており種の識別には適用できなかった。対照的に、分子系統解析により見出された各種は、アナモルフであるProsthemium属の形態形質から明確に定義づけられた。以上の例は、分類体系上にほとんど考慮されることなく軽視されてきたアナモルフが子のう菌類の進化に大きく関与しており、系統分類の解明に重要であることを示唆するものと思われる。
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