2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22770088
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 望 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 支援研究員 (40456611)
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Keywords | DNA / 性判定 / 標本 / 博物館 |
Research Abstract |
本研究は、博物館等に保存されている性別不明の動物標本を有効に活用するため、博物館標本からDNAを抽出、分子生物学的手法を用いた性判定法を確立することを目的とする。平成23年度は、哺乳類標本の大半を占める骨格・仮剥製標本から得たDNAの状態を調べた。 骨格標本(標本作製時に約80℃の水で処理)では骨に穴をあけることにより得た骨粉100~200mgから、仮剥製(標本作製時に焼ミョウバンで処理)ではむしり取った100本の毛(毛根はほとんど含まれていない)からDNAを抽出した。抽出したtotal DNAの量を測定したところ、骨では平均5ng/μl、仮剥製の毛では平均200ng/μlであった。PCR法により増幅できるDNA断片の長さは、骨で100~250bp、仮剥製の毛で600~900bpであった。分子生物学的手法による性判定には、新鮮な毛根や血液から抽出したDNAを用いることが多いが、その場合のターゲット領域は、核遺伝子約200bpである。すなわち、仮剥製の毛から抽出したDNAでは、新鮮な試料と同様の分析が可能であると考えられた。 また、仮剥製作製後の経過時間とDNAの劣化の度合いとの関連性など、さらに詳細な調査を行った。同一個体の新鮮な毛とミョウバン固定後の毛から得たDNAを比較したところ、抽出できるDNA量、PCR法で増幅可能な断片長ともに差は認められなかった。続いて、1985~2011年の仮剥製を用いて標本作製後の経過時間とDNA量、増幅可能なDNA断片の長さの関係について調べた。その結果、経年変化よりも個体差の方が大きく、仮剥製作製後30年程度の時間では、DNAは劣化しないことが明らかになった。このことは、これまでDNA分析が困難であると考えられていた博物館標本でも、比較的容易に遺伝子解析ができることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
22年度に十分に達成できなかったX染色体上の遺伝子を複数種について解析、その特徴を調べられた点、仮剥製(毛)から得たDNAは遺伝子を解析するのに十分な状態を保っていることが分かった点は評価できると思う(投稿準備中)。また、次世代シーケンサーを使用するなど、莫大な費用をかけなくてもある程度の遺伝子解析ができることを示せた点は、汎用性の面で重要である。以上のことから、24年度の研究計画を遂行する見通しが立てられた。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は、仮剥製の毛から得たDNAを用いて、X染色体上およびY染色体上の遺伝子の一部を増幅することを試みる。核DNAはミトコンドリアよりも量が少ないため、解析が困難であることが推測されるが、PCR法と電気泳動だけで性判定を行うことを目指す。計画通りに研究が進められなかった場合、ターゲットとする遺伝子を変更、プライマーの調整を行う等、工夫しながら、最終目標に近づけるよう努力する。 早い時期に、毛から得たDNAで十分な成果が得られた場合は、それよりも状態の悪い骨から得たDNAでも同様のことを試みる。また、100年以上前の標本からもDNAの分析を試みる。
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Research Products
(2 results)