2012 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン濃度勾配維持に関連する膜タンパク質の電子線結晶学を用いた構造機能解析
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22770147
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷 一寿 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 特任准教授 (20541204)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電子線結晶学 / 膜タンパク質 / 二次元結晶 / aquaporin-4 / H+,K+-ATPase / 電子顕微鏡 / 三次元構造 |
Research Abstract |
膜タンパク質の立体構造を生体内に近い脂質二重膜中で明らかにすることで、生理的条件下でのプロトン濃度勾配維持を分子レベルで理解することに取り組んでいる。具体的には、1)プロトンの移動を伴わない水チャネルの高い水の選択性と速い水透過性機構、2)H+,K+-ATPaseのプロトン逆流を防ぐラチェット機構を、構造と機能との相関を詳らかにすることで、生体内における分子の挙動に対して構造生理学的な面から深く理解していくことを目指す。昨年度の水透過アッセイの実験結果を踏まえ阻害剤(水銀等)と水チャネル アクアポリン-4(AQP4)との結晶化を進め、極低温電子顕微鏡観察時試料調整の条件検討が終わり、現在データ収集を行なえる段階にまで到達した。また、H+,K+-ATPaseに関しては、リン酸化アナログの1つであるAlFxとK+の同族原子であるRb+との結合型構造の構造解析が完了し、E2状態においてイオン結合サイトにRb+に相当するデンシティの可視化に成功した。本来、膜貫通領域内のイオン結合サイトである2カ所に見られるはずが、1箇所のみであったことから、そのデンシティの信頼性を確認するためBootstrap法を適用して評価するととともに、生化学実験からも外部pHに依存したK+の輸送stoichiometryの変化を確認することができ、論文として発表することができた。 本研究のもう1つの特徴として、極低温電子顕微鏡から得られたデータを用いて電子線結晶学により立体構造を決定する点があり、そのための解析システム開発も順調に進めることができた。迅速に適切な解析を進められるおかげで、本年度に論文発表された他のグループの誤りを早急に見つけ出すことができ、Y. Fujiyoshi, R. Mackinnon,T. Walzと共に電子線結晶学およびチャネルの研究分野へ貢献できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度もH+,K+,-ATPaseのE2状態にあるRb+あるいはK+イオン結合型の2つの立体構造を決定し発表することができ、更に水チャネルアクアポリン-4に関しても新しい結晶化条件の探索に成功し、現在水透過が抑制された状態の構造解明に向けたデータ収集の段階にきている。また、膜タンパク質の立体構造解明を加速するために電子線結晶解析のためのプログラム開発も併せて進めることで、構造決定が難しいと言われてい膜タンパク質を本年度までに計6つ立体構造を決定することができた。これらの構造情報は、原子座標の場合RCSB PDB(2YN9, 2XZB, 3IZ1, 3IZ2, 3IZY)、密度マップの場合EMDB(EMD-2219,EMD-2220,EMD-1831,EMD-1748,EMD-1749,EMD-5202)へそれぞれデータを登録し、多くの研究者に利用してもらえるよう公開している。 更に、概要にも述べたとおり開発している解析システムを使用することで、電位依存性カリウムチャネルKvAPの二次元結晶を用いた投影像とその結果に基づいた機能研究(Proc.Natl. Acad.Sci. USA 110:3369-3374)の誤りを迅速に見つけ出すことができ、チャネルの研究分野に対する悪影響を最小限に抑えられただけでなく、電子線結晶学の信頼性回復にも貢献できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、構造と機能連関として、水チャネルやH+,K+-ATPaseといった膜タンパク質に対して薬剤や阻害剤などを作用させた状態の立体構造決定を随時進めていき、プロトン濃度勾配維持の分子レベルでの機構解明へ向けて研究を推進したいと考えている。一方で、既に構造解析プログラムの高速処理化に向けた開発は十分に進んでおり、他のグループで行われたような解析の誤りを検出できるようにまで成熟している。しかし、従来の解析方法だけではクロスチェックを行うことが難しいこともあり、解析の誤りを自身で気づいて修正できるかどうかは、我々のシステムを用いても研究者に大きく依存する。そのため、このようなエラーを防ぐことができるようなシステムを構築するために、新たな方法論を含めて電子線結晶学の構造解析方法を充実させていたきたいとも考えている。
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Research Products
(8 results)