2011 Fiscal Year Annual Research Report
共生細菌二種共同による昆虫性比偏向とそれを阻害するオス因子の動態
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22780048
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
森村 幸代 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域, 主任研究員 (80533140)
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Keywords | 共生細菌 / 性比偏向 / ヒメトビウンカ / スピロプラズマ / ウォルバキア / オス殺し / 不完全変態 / 個体群動態 |
Research Abstract |
ヒメトビウンカには2種の共生細菌、ウォルバキアとスピロプラズマが感染しているが、これまでの研究からスピロプラズマ単独で、感染メスのオスの仔を選択的に殺し、性比をメスに偏らせることを明らかにした。平成23年度には、感染メスが産んだ仔が、どの段階でオスのみが殺されるかを調査した。スピロプラズマに感染し、メスのみを生産するメス偏向系統(FB系統)と、スピロプラズマに感染していない正常性比系統(NB系統)を用いて、卵の艀化率・1齢~5齢での死亡率を比較した。その結果、FB系統の卵の死亡率はNB系統よりも有意に高かったが、約80%は艀化しており、オスの仔をすべて殺すには至らなかった。幼虫期の死亡率については、4~5齢でFB系統の死亡率が1~3齢期よりも有意に高く、オス殺しは老齢幼虫で行われていることが示唆された。さらに、スピロプラズマの感染量(相対量)を定量PCRにより計測した結果、幼虫期の感染量は4~5齢期に上昇することが明らかになった。これらの結果から、スピロプラズマによるオス殺しは4,5齢期に行われていると考えられ、今後、スピロプラズマの単離や人為的導入の技術を確立する上で非常に有用な知見を得ることができた。さらに、国内の個体群性比とスピロプラズマ感染率については、太平洋側の個体群を中心に調査を行い、北海道、宮城、栃木、静岡、和歌山、愛媛、山口で行った結果、スピロプラズマ感染率は非常に大きな変異が見られたが、台湾台東で発見されたようなメスに強く偏った個体群性比は見られなかった。日本国内でメスに強く偏った個体群性比が見られないのは、国内個体群の中にはスピロプラズマによるオス殺しを無効化するオスが存在するためと考えられる。今後は、オス殺しを無効化する国内オスの頻度と個体群性比の関係について明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピロプラズマによるオス殺しが主に幼虫期の後期に行われているという知見が得られたことから、スピロプラズマの人為的導入のための情報を得ることができた。また、国内個体群の性比や感染率に関する調査も順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
国内個体群については、さらに採集地点を増やし、特に日本海側の地域を中心にデータを蓄積することでスピロプラズマによる個体群性比偏向と、それを無効化するオスの関係を明らかにする。スピロプラズマの単離培養が難しいため、感染メス体液を利用した人為的メス性比偏向の発現を行う予定である。これには4~5齢幼虫でスピロプラズマ感染量が高まることから、この時期に人為的導入を試みる予定である。また、台湾個体群の個体群性比とスピロプラズマ感染との関係について、国内個体群との違いを比較する。これまでのところ、東南アジア、東アジア地域のなかで、日本個体群においてのみオス殺しを無効化するオスが存在することから、この形質が生じるメカニズムや生態学的特性を明らかにするための重要な知見となる。
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