Research Abstract |
コナダニ類は脂肪族化合物に限り,炭化水素を分泌する種群と脂肪酸エステルを分泌する種群に大別できる.炭化水素を分泌する種群の中で,Z,Z-6,9-ヘプタデカジエン(6,9-C17:2)を主成分とするダニが非常に多く,生合成的に相当する前駆物質はリノール酸である.サトウダニCarpoglyphus lactisに同位体標識したグルコース-1-^<13>Cを継続的に給餌したところ,6,9-C17:2が同位体でラベル化されることをGC/MSで確認した.よってサトウダニは前駆物質であるリノール酸を生合成し,6,9-C17:2に誘導していると推測した.一部の昆虫(ゴキブリ,アブラムシ,コオロギ,シロアリなどの特定種)2を除いて,一般的に動物にはω-6位に二重結合を作るΔ^<12>-デサチュラーゼがないためリノール酸を生合成できない.そこでまず,コナダニ類がリノール酸を生合成する事実を同位体標識化合物の取り込み実験で証明した.同位体標識化合物を給餌したダニの脂質を溶媒抽出し,加水分解とエステル化反応を行って脂肪酸エステルに誘導した.カラムクロマトグラフィーによりリノール酸エステルを単離精製し,^<13>C NMRスペクトルを測定した.標品のスペクトルデータと比較し,同位体標識された炭素原子を帰属することで,サトウダニによるリノール酸の生合成を証明した.さらに,6,9-C17:2がリノール酸から直接変換されることを実証するため,^<13>C NMRスペクトルにより,リノール酸と6,9-C17:2の同位体^<13>C標識位置の特定および取り込み率の算出を行った.その結果,6,9-C17:2はリノール酸から直接,脱炭酸あるいは脱COにより生成していることを確認した.本研究の成果として,研究対象とするコナダニ類が一次代謝産物およびそこから誘導される二次代謝産物の生合成研究に有効な研究対象であることを示すことができた.
|