Research Abstract |
本研究課題の期間全体を通した目的は,アジアの2箇所(日本サイト,タイサイト)の山地林生態系をモデルサイトとして,森林の樹冠部における無機イオン物質の循環プロセス,すなわち,樹冠部への降水・霧による湿性沈着,樹冠部への粒子状・ガス状物質の乾性沈着,樹冠部での溶脱・吸収といった物質の循環過程を現地観測により定量的に解明し,既存のモデルの適用可能性の確認や改良をおこなうことにある.研究期間の初年度にあたる昨年度は,2箇所の研究サイトにおいて,降水・霧による湿性沈着量,乾性沈着量,林内雨・樹幹流を介して林床に到達する全沈着量を,時間連続的に現地観測するためのシステムを構築し,本研究課題の基盤である定期的な観測データの収集を開始した.今年度は,それらの定常的な観測システムを維持しつつ,新たに,霧水の化学性を正確に把握するために,アクティブ型の霧水サンプラーを現地に設置し,定期的な観測で用いているパッシブ型の霧水サンプラーによる観測結果との比較を開始した.また,今年度は,ここまで蓄積されつつある観測データを利用して,日本サイト,すなわち,奥秩父に立地するブナ-イヌブナ林生態系における樹冠部の物質循環の季節変化とその種間差について解析し,その結果を印刷公表することができた(今村ら,印刷中).当該成果においては,本研究課題の当初計画では,来年度に実施予定となっていた観測データの既存の樹冠収支モデルへの適用をおこなっており,本課題の最終的なとりまとめに向けて,大きく前進したといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「概要」で述べたとおり,本研究課題の当初計画で最終年度に実施予定であったデータ解析(既存の樹冠収支モデルへの試験的適用)が進んでおり,かつ,印刷公表された研究成果となっている点は評価できる.
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Strategy for Future Research Activity |
タイサイトにおいて,霧水をサンプルするためのアクティブ型のサンプラーを設置後,パッシブ型のサンプラーとの比較に用いるサンプルが十分に蓄積していない点が問題となっている.両サンプラーの霧水サンプルを,本研究課題の最終年度の前半において確実に蓄積し,速やかに解析することが課題となっている.
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