2011 Fiscal Year Annual Research Report
森林窒素飽和が大気中へのNO発生増加に及ぼす影響の定量的評価法の開発
Project/Area Number |
22780150
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
渡邊 未来 独立行政法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 研究員 (50455250)
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Keywords | 窒素飽和 / 森林土壌 / 一酸化窒素 |
Research Abstract |
窒素飽和とは、人間活動により放出された窒素化合物が大気経由で森林に流入して蓄積し、生態系が窒素過剰な状態に陥ることである。このような森林では、渓流水への硝酸性窒素の流出量が増大するため、水源水質の劣化や湖沼の富栄養化などが引き起こされる危険性がある。さらに、窒素飽和森林では土壌からの一酸化窒素(NO)ガスの発生量が増大することも指摘されている。NO発生量の増加は、酸性雨やオゾンの増加を引き起こすため、森林生態系にダメージを与える可能性がある。本研究の目的は、窒素飽和が大気中へのNO発生増加に及ぼす影響を定量的に評価することである。そのため、土壌からのNO発生量を低コストで正確に計測する手法を開発し、森林への高い窒素負荷が土壌微生物作用を介してNOガス発生量に与える影響を調べる。 本年度はまず、土壌からのNO発生量の測定法を、窒素飽和森林に対して最適化することに取り組んだ。しかし、茨城県筑波山が窒素飽和森林であることを確認するため、多地点で渓流水の硝酸性窒素濃度を調査した結果、窒素飽和状態にある森林集水域とそうでない集水域が存在した。この原因を土壌中の窒素動態に着目して解析することは、土壌からのNO発生量を調べる上で重要な基礎データとなるだけでなく、窒素飽和の改善に繋がると考えられた。そこで研究計画を一部変更して、窒素飽和レベルの異なる2つの森林集水域で土壌中の窒素動態を比較した。その結果、土壌中の窒素含有量は両集水域で同程度であったが、微生物バイオマス窒素量は窒素飽和状態にある集水域で高いことが明らかになった。この結果は、窒素飽和森林では窒素がより動きやすくなっている可能性を示している。また、渓流水の硝酸イオンの酸素・窒素安定同位体比の解析により、硝酸が渓流水に流出するまでのプロセスも検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
窒素飽和状態の森林でも、地点によって土壌の窒素動態が異なる可能性があることが分かり、これを確認することは、土壌からのNO発生量の測定する場所の選定にも必要であることから、窒素飽和森林における土壌中の窒素動態実験を優先したため。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、土壌から発生するNOxの窒素安定同位体比(δ15N)は、自動車排ガスや工場排煙などの都市活動に伴って発生するNOxのδ15Nとは大きく異なることが明らかになってきた。そのため、森林大気中のNOxは土壌由来NOxと都市由来NOxの混合によってできていると仮定すれば、森林大気中のNOx、土壌から発生したNOx、都市大気中のNOxのδ15Nを測定することで、森林大気中のNOxに対する土壌由来NOxと都市由来NOxの寄与を算出できる。この方法は、当初計画していた土壌からのNO発生量を野外で多地点かつ経時的に測定して解析する方法に比べ、簡便かつ効率的に、窒素飽和森林で土壌からのNO発生量が増大しているかを検証できると考えられる。そこで研究計画を一部変更して、今後はまずNOxのδ15Nの測定方法を確立する。その後、窒素飽和森林である茨城県筑波山などに本法を適用してその有効性を検証する。
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