2011 Fiscal Year Annual Research Report
新しい耳石技術を駆使したサクラマスの回遊多型の再検討
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22780173
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒木 真理 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (00568800)
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Keywords | 海洋生態 / 水産学 / 魚類学 / 行動生態 / 環境対応 / 回遊生態 / 初期生活史 / 耳石 |
Research Abstract |
サケ属魚類には回遊多型が認められており、それは本属内の系統的に古い種のもつ柔軟性と考えられている。こうした明瞭な回遊多型のほかに、幼稚魚期にハビタットシフトがあることが報告されている。ハビタットシフトは初期の成長や生残に大きく関与し、深刻な環境変化に対する保険効果もあるといわれている。そこで本研究では、北海道に生息するサクラマスの幼稚魚を対象に耳石微量元素解析を行い、本種における生活史初期のハビタットシフトを明らかにすることを目的として調査を実施した。サクラマスの移動前の浮上稚魚と降河時期のスモルトについて、2010年の調査地である北海道の床丹川と別々川に加えて、茂初山別川とニナイベツ川においても定期的な標本採集を実施した。その結果、河川間で生物学的特性に有意差は認められなかった。X線マイクロアナライザーを用いて耳石微量元素を分析したところ、別々川の個体の耳石Sr:Ca比は低値で推移し、河川に留まっていることがわかった。一方、床丹川の個体の耳石Sr:Ca比は浮上直後から高くなり、汽水あるいは海水を経験している可能性が示された。これらの結果は昨年の個体群と同様の傾向で、年による移動パタンの変化はみられなかった。茂初山別川とニナイベツ川の個体群はSr:Ca比は低く、河川内に留まっているものと推定された。床丹川の水温変化は、同じ日本海側の茂初山別川と太平洋側の別々川の水温の中間であり、水温の影響による幼魚の移動の可能性は低いと考えられた。急勾配の床丹川では幼魚が留まるような場所が少なく、雪解け水によって河口または河口付近の沿岸域まで押し流され、滞留したものと推測される。今後こうしたハビタットシフトをもたらす要因を詳しく検討していくことにより、サクラマスの生活史理解と準絶滅危惧種に指定されている本種の保全に役立つものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2010年、2011年の2カ年ともに北海道の河川において研究連携者の協力を得て野外調査を実施し、サンプルを取得して解析を進めている。これまでに耳石微量元素解析によって得られた結果からは、河川による移動パタンの違いが明確となり、サクラマスの幼稚漁期のハビタットシフトの実態が初めて明らかとなった。3年間の調査結果を原著論文としてとりまとめ、公表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
北海道の各河川に生息するサクラマス幼魚の餌環境、個体密度の流程分布などを比較することにより、サクラマス幼稚魚のハビタットシフトをもたらす要因を詳しく検討する。また、今回ハビタットシフトのみられた河川と同じような勾配をもつ河川のサクラマス幼魚の回遊履歴を調べることで、受動的なハビタットシフトが普遍的なものであるかどうか検証していく必要がある。本学の岩手県大槌町の大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターでICP-MSを用いて水の微量元素分析を行う予定であったが、昨年の震災の影響によりこの機械が使用できなくなったため、他機関の分析機械を用いて実施する。
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Research Products
(2 results)