Research Abstract |
チェンジエージェント間で技能がどのように伝承されているかを明らかにするため,文献調査ならびに実際のOJTを参与観察し,その一連の流れを調査した。また,野家啓一の物語り論に依りながら,核となる物語り文の抽出に関連する既往研究成果を反映した分析枠組みを構築し,実証的な分析を行った。この分析枠組みは,企業的農家で行われているOJTの経験談を基にしたテキストデータを解析することで,有効性の検証を行った。用いたテキストデータは,農業経営や獣医コンサルタントによるOJTにおける発話内容や,その経験談を基にした会話内容である。具体的には,石川県金沢市内の税理士事務所所属の農業経営コンサルタントとクライアントとの発話内容を記録しつつ,その活動を受ける前と後における意識変化や会話の内容の変化に着目し,形態素解析並びに係り受け解析を実施した.他方,企業的経営を展開するネットワーク型組織G社における獣医コンサルタントのOJTに参加した農家に対する意識変化についても,自由記述式の質問調査をラダリング形式で行った. その結果,G社は科学技術(育種や各種のデータシステム)を次世代へ引き継ぎながら,専門集団としてG本社の社員グループと参加農場経営者グループとが両輪となってG社全体の経営を展開するといった,創業者Aをリーダーとしている創業者世代とは違う新たな方向に向かう可能性が示唆されたが,現在のところ,各世代が揃っているという点においては,物語り文が受け継がれていることが確認できた。 本稿で設定した分析枠組みを適用することで,物語り文の継承過程が異なる他者を,類型化することができた.つまり,活動の不確実性や組織の不安定性,組織構成員の学習成果の散逸,他組織への依存性を回避するために,組織の「物語り」を聞き手である個人の関心や知識を前提として「語る」ことで,円滑に物語り文の継承が成立する可能性が示唆された。
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