2011 Fiscal Year Annual Research Report
持続可能な農村の実現に向けた社会関係資本の意図的な蓄積の可能性
Project/Area Number |
22780205
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
松下 京平 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (20552962)
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Keywords | 持続可能な農村 / 社会関係資本 / 政策評価 |
Research Abstract |
本研究の目的は、農林水産省が2007年度より実施する農地・水・環境保全向上対策(以後、向上対策)を事例に、持続可能な農村を実現する上で不可欠となる社会関係資本に着目し、政策実施者によるその意図的な蓄積が可能かどうかを、計量経済学の手法を援用し定量的に検討することである。本年度は、前年度に実施したアンケート調査(配布数4471通、回収数1143、回収率25.6%)に基づき、データ分析・成果発表等を行った。分析目的は、向上対策に参加することで地域住民の社会関係資本はどの程度蓄積されうるかを集計データに基づき定量的に検証することである。しかし、分析目的の達成に向けては、「同一人物において、向上対策に参加した場合と参加しなかった場合における社会関係資本の蓄積量の違い」という現実には観察不可能な状況を比較・検討する必要がある。そこで本研究では、平均処置効果とよばれる計量経済学的手法を援用し、上述する観察不可能性に関する問題の克服を試みた。得られた知見を以下の三点である。(i)向上対策参加による社会関係資本の蓄積効果は農家と非農家とで異なる。(ii)農家にとって、向上対策は農業活動の効率向上の一手段に過ぎず、それへの参加を通じて地域内外の人々とつながりを形成することが目的ではない。そのため、農家においては向上対策参加を通じて社会関係資本が蓄積されることはなかった。(iii)非農家にとって向上対策参加は非日常的な体験を通じた地域内外の人々との交流促進の場として機能し、それゆえ、非農家においては向上対策参加を通じて地域内および地域外での社会関係資本が蓄積されることが明らかとなった。農村地域における社会状況変化の一つとして混住化(農家率の低下/非農家率の増加)がある。とりわけ、地域資源の維持管理の中心的担い手であった農家が減少することは、農村に内在する多様な自然環境質の低下を引き起こしかねない。こういった問題に対して本研究結果が提示する政策的含意としては、向上対策への参加を通じた非農家の社会関係資本蓄積は、非農家が地域住民との関係性を強めることで、地域資源の維持管理等を含む農業集落機能の向上に貢献しうる。さらに、非農家が地域外の人々と交流を促進することは都市と農村の新たな関係を構築していく基礎となる可能性を秘めている。こういった意味において、向上対策は農家への働きかけについては十分とはいえないものの、農村地域の持続的な発展において一定の貢献を果たしうることが期待される。以上の研究成果は、日本農業経済学会大会(2012年3月30日於九州大学)にて口頭報告として発表し、同報告要旨集に掲載された。
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Research Products
(2 results)