Research Abstract |
経済史・農業史分野においては,昭和恐慌下における農家家計の行動に関する多くの研究が蓄積されてきた。しかしながら,恐慌前後における農家家計の経営効率性の推移や自小作別といった農家形態間の経営効率性の差異について,ミクロデータを用いて,計量的に検討した研究はほとんどない.そこで本年度は,帝国農会「農業経営の変遷に関する調査」に収録されている農家家計のアンバランスド・パネル・データを用いて,農家家計の経営効率性の推移や経営効率性の決定要因を検討した.なお,検討には経営効率性として,Data Envelopment Analysisにより計測した総合効率性ならびに技術効率性を用いた. 検討の結果,第一に,総合効率性と技術効率性といった農家家計の経営効率性は,昭和恐慌後に上昇傾向にあるとともに,経営効率性の変動係数は低下傾向にあり,経営効率性の高位平準化が進んだことがわかった.また,恐慌後に自作農・小作農間の経営効率性の格差が縮小したこともわかった. 第二に,経営効率性の決定要因に関する推定結果から,総合効率性,技術効率性のいずれに関しても,農家形態,経営における主作目,作付の多様性,雇用労働比率,リスク回避度が農家家計間の経営効率性格差をもたらす要因であったことがわかった.また,昭和恐慌後には,自作農や土地・労働比率の高い農業経営において,経営効率性が向上したことがわかった.この結果は,労働節約的な農家が高水準の経営効率性を実現した一方で,昭和恐慌発生に伴う帰村者増加による経営内の余剰農業労働力の発生が,恐慌後の経営効率性を低下させた可能性を示唆している. 以上で得られた結果は,学術図書として刊行予定である.また,昨年度得られた成果については,学術雑誌に公表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦前期農家家計のミクロデータを用いた,農家家計間の経営効率性の格差に関する分析や「農業経営聴取調査」をはじめとする戦前期農家調査の電子データ化について,計画通り進めることができた.ただし,農家資産の変動と農家の労働供給の関係等に関する分析の進捗は,やや遅れている.しかしながら,おおむね研究目的に即した成果を得ることができている.
|