Research Abstract |
食肉処理場由来のウシやブタ卵巣から卵子を回収し,体外で受精可能な状熊へと成熟させることは,雌個体の有用形質の効率的利用やSPF家畜を効率的に生産するために重要な技術である.しかし,これらの動物種において,既存の体外培養法により作出した卵子の胚盤胞期胚への発生率は,体外成熟卵子のそれに比較して低い.このことから,より詳細な卵子成熟・排卵機構の解明が必要である.卵子成熟を誘導するFSHやLHに対する受容体は卵子を取り囲む卵丘細胞にはほとんど発現しておらず,その外側の顆粒膜細胞に存在する.本研究では,卵丘細胞の受容体-シグナル伝達系を網羅的に解析することにより,卵丘細胞を標的としたリガンドやシグナル系の探索と卵成熟培養法への影響について検討を行った. ブタ顆粒膜細胞の初代培養系を用いたスクリーニング試験により,FSH刺激によりERK1/2とSRCが持続かつ強くリン酸化されることを明らかとした.また,ERK1/2系はEGF like factorとその切断酵素TACE/ADAM17の発現に依存すること,初期刺激によりリン酸化されたERK1/2によりPGE2とProgesteroneがそれぞれ順に分泌され,この結果効率的に分泌されるEGF-like factorによりERK1/2が持続的にリン酸化されることを初めて見出した.また,SRCはFSH-PKC系によりリン酸化されることを初めて示した.さらに,免疫沈降法により解析の結果,リン酸化されたSrcとTACE/ADAM17が複合体を形成することでTACE/ADAM17活性が上昇し,EGF-like factorの効率的分泌→ERK1/2のリン酸化誘導に繋がることを初めて示した.さらに,上記因子の発現や活性を抑制すると卵子成熟率が減少したことから,上記因子を効率的に誘導する培養は,卵子成熟率の改善に有効であることが示された.
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