2011 Fiscal Year Annual Research Report
新たな犬好中球機能不全症の謎を解き明かす-治療法の確立を目指して-
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22780277
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小林 沙織 岩手大学, 農学部, 助教 (60566214)
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Keywords | 家族性好中球機能不全症 / β2-インテグリン / 犬 / ウシラクトフェリン / CD11b/CD18 |
Research Abstract |
1.遺伝的背景の精査:家系の調査によると、母犬は9歳齢で死亡したが生涯無症状であったとのことであった。父犬は生存していたが、無症状であるとのことであった。症例2例には、雌1頭・雄2頭の同腹犬がいるとのことだった。そのうちの雌の同腹犬と父犬との戻し交配を実施した結果、4頭の子犬(雄1頭、雌3頭)が産まれた。臨床症状の継続的な観察と共に、好中球機能検査(吸着能、活性酸素産生能、貪食能、インテグリン発現量の評価)を実施した。好中球機能不全症を有した症例犬2例では生後3カ月より、上部気道の細菌感染と思われる症状が発現したとのことであったが、戻し交配で得られた4頭の子犬には細菌感染による臨床症状は継続して認められなかった。また、好中球機能検査では、同年齢の子犬との比較を行ったが、特徴的な活性酸素産生能の低下やインテグリンの減少は検出されなかった。したがって、症例に見られた好中球機能不全症は母犬由来の可能性が示唆された。 2.ウシラクトフェリン経口投与試験の実施:長期にわたるウシラクトフェリン経口投与を好中球機能不全症例に対して実施し、臨床症状および好中球機能へ及ぼす治療効果を検討した。ウシラクトフェリンは、乳汁より分離精製した天然型のもので用量は40mg/kg/dayを少量の水に溶解させ、経口投与させた。 2症例において、初めの2週間は抗生物質の投与・輸液・吸入療法等の対処療法を実施したがいずれも重症化した上部・下部気道細菌感染には効果が認められなかった。ウシラクトフェリンの併用投与により、2症例における粘液膿性の眼脂・鼻漏や呼吸器感染の症状が改善した。同時に、好中球のインテグリンCD18発現量の増加がおこり、活性酸素産生能が著しく改善した。これは投与期間の長さに比例して改善し、最終的には正常犬レベルまで活性酸素産生能が回復していた。一時期、オーナーの都合によりラクトフェリンを休薬したが、徐々に好中球機能が減衰していった。したがって、ウシラクトフェリンの経口投与は、家族性好中球機能低下症の好中球のインテグリン遺伝子発現量を可逆的に増加させることによって一連の好中球機能の回復をもたらし、結果として臨床症状を緩和させたと考えられた。また、終生飲み続けることが必要であると思われた。この研究により、これまで骨髄幹細胞移植以外では対症療法しかなかった好中球機能不全症の治療法に、新たな根治療法を提案できる研究成果となったと考えられる。
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Research Products
(3 results)