2011 Fiscal Year Annual Research Report
受容体の糖鎖修飾が麻薬性鎮痛薬の作用において果たす役割の解明
Project/Area Number |
22790518
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Research Institution | 財団法人東京都医学総合研究所 |
Principal Investigator |
笠井 慎也 財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (20399471)
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Keywords | ミューオピオイド受容体 / 糖鎖修飾 / オピオイド / モルヒネ / 薬物感受性 / 薬物感受性 / 遺伝子多型 / モデルマウス |
Research Abstract |
HMIマウス系統では、他の野生由来近交系マウス系統とは異なりミューオピオイド受容体遺伝子(Oprm1)にアミノ酸置換を引き起こす遺伝子多型(G164A,Ser55Asn)を有する。ミューオピオイド受容体にはマウスでは4箇所、ラット・ヒトでは5箇所のAsn結合型糖鎖修飾部位があるが、HMI系統で見られたアミノ酸置換を引き起こす遺伝子多型はこのAsn結合型糖鎖修飾部位を1箇所増やして5箇所にする遺伝子変異である。 G164A遺伝子多型を指標にして、HMI系統をC57BL/6遺伝子背景に戻し交配して作製したOprm1^<HMI/HMI>コンジェニックマウスの遺伝子背景の解析を行った。遺伝子背景の解析にはIllumina Mouse MD Linkage Panelを用い、1,449SNPs(Chr.1-19,X)において遺伝子型判定を行った。HMI系統及びC57BL/6J系統間では699SNPsで塩基に違いがあり(223 SNPsではHMI系統若しくはOprm1^<HMI/HMI>マウスで検定不可)、rs29368538においてのみOprm1^<HMI/HMI>マウスの遺伝型がHMIマウス系統の遺伝型と一致した。rs29368538遺伝子多型はChr.Position:3987385(MGSCv37,Build37.1)であり、Oprm1遺伝子(Chr.Position:3309495-3557272)と同じChr.10に位置する。遺伝型判定を行ったSNPsの中でHMI系統とC57BL/6J系統間で塩基の異なる最も近傍のSNPはrs6185923(Chr.Position:5378624)で、Oprm1^<HMI/HMI>マウスの遺伝型はC57BL/6J系統であることから、Oprm1^<HMI/HMI>マウスではOprm1遺伝子を含む最大約5Mbsを除きC57BL/6J系統へ戻し交配が完了していると考えられる。 ヒトミューオピオイド受容体遺伝子においてもAsn結合型糖鎖修飾部位に相当する遺伝子多型(A118G,Asn40Asp)があり、モルヒネなどのオピオイド感受性や依存脆弱性との関連が示唆されているが、分子レベルでの解析は殆ど行われていない。そのため、Oprm1^<HMI/HMI>コンジェニックマウスはヒトA118G遺伝子多型のモデルマウスとして有用であると考えられる。 本研究により明らかにされつつある薬物感受性におけるマウス系統差の遺伝子メカニズムは、将来的にはヒト個人差の分子メカニズムの解明に繋がると考えられる。モルヒネの精神依存、身体依存などの深刻な副作用を最小限に抑えつつ、効果的な慢性疼痛治療を可能とするテーラーメイドの緩和医療に道を拓くことが期待できる。
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