Research Abstract |
副腎内分泌系の変化に着目した新たな虐待の法医病理学的証明法,虐待期間推定法を開発するために,動物実験及び実際の剖検例を用いた検討を行った。まず,心理的虐待モデルとして長期拘束ストレスマウスを用い,ストレスによる副腎内分泌系の変化を検討したところ,3週間までの拘束ストレスでは副腎皮質系の反応(視床下部-下垂体-副腎皮質系)によって血清ACTH,糖質コルチコイド(corticosterone, cortisol)は上昇し,糖質コルチコイドの材料である副腎内コレステロールは減少した。また,副腎内へのコレステロール供給に関わるScavenger receptor class B, type I (SR-BI), HMGCoA reductase, Hormone sensitive lipase各遺伝子の副腎における発現は,拘束期間中それぞれ異なるパターンで増加した。一方,2週間までの拘束ストレスでは,副腎髄質系の反応によって副腎におけるchromogranin A遺伝子発現が増加していた。したがって,副腎内分泌系の変動を検索することで,ストレス暴露の証明と拘束期間推定のための指標となり得ることが示唆された.そこで次に,実際に小児の虐待死剖検例17例を試料として検討したところ,虐待期間が数週間から2ヶ月の比較的短期間の例では,動物実験の結果と同様に,虐待ストレスに対応して糖質コルチコイドを過剰分泌するために副腎が肥大(重量の増加)し,副腎内コレステロールが減少し,副腎皮質のSR-BI発現が増加していた。以上の結果から,糖質コルチコイド系の変化は虐待の法医病理学的証明並びに虐待期間推定のための指標の一つとなり得るものと考える。
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