2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22790600
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
井濱 容子 琉球大学, 医学研究科, 助教 (80347137)
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Keywords | 陰圧損傷 / 法医解剖 / 肉損傷 / 挫滅症候群 / 胸郭運動障害 / 呼吸障害 / 突然死 |
Research Abstract |
本研究の目的は、局所に負荷された陰圧が生体に与える影響を明らかにすることである。これまでの研究で作成したラット後肢への陰圧負荷モデルを使用して、陰圧負荷による(1)局所所見ならびに(2)全身所見について検討を行った。 (1)局所所見:出現時間に差はあったがいずれもうっ血→腫大→水疱形成→水疱破裂→出血の経過を取った。損傷肢の重量は30~90分では経時的に増加したが、90分以降は変化が見られなかった。腓腹筋・ヒラメ筋の組織学的検索では、負荷時間とともに変性筋細胞の割合が増加し、特に筋肉深層において著明な変化が認められた。筋細胞内にはIL-6が発現し、ミオグロビンの細胞外への逸脱が認められた。 (2)全身所見:陰圧負荷直後に一過性の血圧低下がみられたが,数分~10数分後には負荷前の状態に戻り死亡例はなかった。血清生化学的検査ではK、CK、BUN、クレアチニンは上昇したが、その他電解質aや各種逸脱酵素、サイトカインには変化は認められなかった。 陰圧損傷の本態は筋肉損傷であり、その病態は挫滅症候群に類似すると推測される。本研究で行った陰圧損傷モデルでは、挫滅症候群に関する実験報告に比較して、受傷後早期から筋細胞の組織学的変性が観察された。この結果は、陰圧損傷が挫滅症候群とは異なった機序で筋損傷を引き起こしている可能性が考えられる。挫滅や虚血とは異なる「陰圧」という受傷機序によって引き起こされた筋損傷を明らかにしたことは新たな知見であり、その結果は国際誌にも掲載された[Legal Med 2012;14:21-26]。 しかし、ラット後肢への陰圧負荷では死に至るものはなく、当初の目的である陰圧損傷が死をもたらす機序を解明するには至っていない。そこで新しいモデルとして、ラットの上肢に対して同様の陰圧(1/10気圧)を負荷したところ、10数秒で血圧が低下し呼吸停止をきたして全例が死亡した。現在、その原因を明らかにするために詳細な実験を重ね、当初の研究課題である「陰圧損傷が死をもたらすメカニズムを明らかにする」ために研究を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中間報告としての論文が国際誌に掲載された。["Morphologic investigation of injury caused by locally applied negative pressure in aratmodel" Legal Med 2012;14:21-261。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終段階として、ラットの上肢に陰圧を負荷するモデルを用いて、局所への陰圧が死をもたらすメカニズムを解明するために研究を行っている。当初、人間の上肢と同じ容積(身体の約6.2%)となるようにラットの後肢を損傷肢としたが、吸引損傷による死は陰圧が負荷される面積ではなく、部位であることが判明した。さらにその死因についても、上肢の陰圧負荷モデルで観察される速やかな血圧低下と呼吸停止を考慮すると、死因として出血性ショックは考えにくく、むしろ脳虚血や胸郭運動障害などを念頭において実験計画を立てているところである。
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