2010 Fiscal Year Annual Research Report
幼若期ストレスにより誘発される成熟期情動行動障害の分子基盤解析
Project/Area Number |
22791101
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉田 隆行 北海道大学, 大学院・医学研究科, 助教 (60374229)
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Keywords | 扁桃体 / カンナビノイド |
Research Abstract |
内因性マリファナ類似物質である2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は、一般的なシナプス伝達とは逆向きに情報を伝達する逆行性シグナル伝達物質である。2-AGはシナプス後ニューロンのジアシルグリセロールリパーゼα(DGLα)によって生合成され、シナプス前終末のカンナビノイドCB1受容体を活性化し、神経伝達物質放出を抑制するフィードバック機構を担う。 情動制御に重要な扁桃体では、CB1が抑制性シナプスの長期抑圧や恐怖記憶の消去学習に関与するという報告がなされていた。しかしながら、2-AGシグナル伝達関連分子の細胞内局在や機能的役割については不明な点が多いことから、本研究によってこれらの解析を行った。 その結果、海馬や大脳皮質からの入力を受け、ポリモーダルな情報統合を担う扁桃体基底核(BA)において、DGLα、CB1および2-AG分解酵素のモノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)が高密度に集積するコレシストキニン(CCK)陽性の抑制性シナプスを発見した。さらに興味深いことに、このシナプスはシナプス前終末部がシナプス後部の細胞体に深く陥入する特殊な形態をしており、我々はこれを「陥入型シナプス」と名付けた。一方、大脳皮質や視床からの入力を受け、ユニモーダルな情報統合を担う扁桃体外側核(LA)では陥入型シナプスは認められなかった。また、パッチクランプ法による電気生理学的解析から、BAの錐体細胞では内因性カンナビノイド依存的な一過性のGABA放出抑制(Depolarization-induced Suppression of Inhibition:DSI)がLAの錐体細胞のDSIに比較して極めて容易に生じた。 以上より、BAには2-AGシグナル伝達による脱抑制を誘起するために形態的・機能的に特化した陥入型シナプスが存在し、恐怖記憶の消去装置として機能する可能性が示唆された。
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