2011 Fiscal Year Annual Research Report
動物脳内redox反応を検出するin situ技術の開発と精神医学研究への応用
Project/Area Number |
22791114
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小杉 桜子 金沢大学, 医学系, 博士研究員 (50517810)
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Keywords | 酸化ストレス / redox反応 / 精神疾患 / in vivo検出法 / グルタチオン化 / 薬物依存 |
Research Abstract |
研究目的;精神疾患モデル動物脳内で、酸化ストレスあるいは、それに対応するredox反応が引き起こされている可能性を各脳部位で同時に調べる目的にて、in vivoでのグルタチオン化検出系を確立する。 結果;初年度は、まず薬物依存モデル動物を用いて、酸化ストレスあるいはそれに対応するredox反応が関与していないか検討した。コカインを慢性自己投与したラットでは、酸化ストレスに拮抗する薬剤としてしられるN-acetylcysteine(NAC)を投与することで、薬物依存に特徴的なコカイン要求行動が抑制され、同時に報酬系の中心核である側坐核において、慢性コカインで障害される長期増強現象や、長期抑制現象が正常化されることが知られている。これまでの研究ではNACの効果は細胞外グルタミン酸濃度を増加させることで得られる、と考えられてきた。我々は、初年度において、NACが側坐核のシナプス局在性タンパク質の多くについて、分解を促進すること、その効果がグルタミン酸に依存しないことを薬理学的に確認した。続いて最終年度に、実際に慢性コカイン投与により、側坐核あるいは背側線条体で、グルタチオン恒常性がどのように変化するかを古典的な生化学的グルタチオン定量法と、in vivoグルタチオン化検出系を用いて検討し、両者のデータの一致性について検証を試みた。その結果、慢性コカイン投与は側坐核の総グルタチオン量(酸化型と還元型の総和)は変化させないものの、還元型(=機能性グルタチオン)に対する還元型(=非機能型)の比を有意に上昇させた。一方、背側線条体では、慢性コカイン投与により総グルタチオン量は有意に低下した。また予想通り、背側線条体に比べ、側坐核の方が、総グルタチオン量が多く、より細胞保護的な環境が整っていることがわかった。以上の結果より、以下の2つの可能性が強く示唆された;(1)通常、脳内でのグルタチオン産生は主にグリア細胞によって担われているが、慢性コカイン投与によりグリア細胞でのグルタチオン産生低下が起こることが示唆されている(Kalivas et al, Nat Rev Neurosci, 2009)。にもかかわらず総グルタチオン量が維持されていることより、側坐核内でのグルタチオン産生がグリア細胞から神経細胞にシフトした,(2)同種の神経細胞にもかかわらず、側坐核と背側線条体では、慢性コカイン投与後に異なるグルタチオン恒常性が誘導される。さらに、これまで抗酸化ストレス作用により効果を発現すると考えられていたNACが、側坐核、背側線条体のいずれにおいても還元型グルタチオンに対する還元型の比を有意に上昇させ、好酸化ストレス的に作用することを初めて確認した。以上の結果より、NACによるコカイン依存的行動の抑制作用は、抗酸化ストレスによるものではなく、細胞外グルタミン酸濃度を増加させることで得られることが改めて確認された。しかしながら上記生化学的データは、脳各部位をホモジナイズして得られたものであり、神経細胞あるいはグリア細胞ごとの特異性については直接の検証に至らず、推測の域をでない。
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