Research Abstract |
本研究の目的は,広汎性発達障害の認知特性や神経基盤を理解し,その診断補助ツールの開発を目指すものである。ゲーム理論に基づき,二者間で生じうる葛藤状態であるジレンマを再現した囚人のジレンマ型ゲームを作成した。そこに,協力行動によって相互に利益がある一方,お互いが非協力的行動をとった場合には,両者が損失を受けるという状況の変動性を持たせることで,相手に対する意識を客観的に評価した。その結果,広汎性発達障害では,他者への意識が定型発達の者に比べて相対的に低いため,相手の行動を強く意識した際に生じうるジレンマの影響が少ない可能性が示唆された。テストステロンは,他者への信頼を低下させると報告されているが,第II指/第IV指長比(2D/4D)は,胎生期のテストステロン暴露の程度を反映するともいわれる。広汎性発達障害の男女において,Baron-Cohenが作成した自記式質問紙である共感化・システム化係数と2D/4Dとの相関をみたが,有意な所見は得られなかった。広汎性発達障害は,青年期に非常に独自の同一性の障害を呈する場合があり,この同一性の障害は,まれに性同一性の障害へと発展することがある。性別違和を訴える広汎性発達障害は少なくないが,石丸らのユトレヒト性別違和スケール(UGDS)日本語版を施行したところ,その有用性が示唆された。基礎的研究として,行動観察上,社会性が低下した状態を呈する点において広汎性発達障害のモデル動物ともなりうる胎生期高濃度アルコール暴露ラットを用いて,神経ネットワークの修復が,新奇探索傾向やパートナーラットとの接触などの社会的行動の改善につながるのかを行動学的に評価した。その結果,胎生期ラット終脳から得た神経幹細胞の経静脈的移植が,一定の改善効果を有することを観察した。
|