Research Abstract |
X線による放射線治療では腫瘍内の低酸素状態が抵抗性の要因となることが知られているが、低酸素腫瘍における放射線抵抗性に関連する因子については解明されていない点が多く,分子生物学的機序の詳細な検討が必要である.本研究では低酸素マーカーであるHIF-1α,および細胞死や血管新生に関するシグナル伝達の内因的な制御因子となる一酸化窒素について焦点を当てて検討した。放射線照射時にHIF-1αの阻害剤であるYC-1を併用した時の急性期低酸素状況下におけるHIF-1αの発現と放射線感受性の検討では,低酸素状況下でHIF-1αの発現は正常酸素状況下と比べ亢進し,YC-1投与により正常酸素状況下と同程度に抑制されたが,YC-1併用の有無による放射線照射後の細胞生残率に有意な差は認められなかった.また,放射線照射時に一酸化窒素産生阻害剤を併用することによる放射線感受性の検討では,ヒト肺腺癌細胞株A549とH3255を低酸素チェンバー内で95%N2・5% CO2混合ガスにより0,1mmHg以下の低酸素状態に暴露した後,5GyのX線を照射し,100μMの一酸化窒素合成酵素阻害薬(NG-Monomethy1-L-arginine,acetate,L-NMMA)を投与し、L-NMMA併用・非併用時におけるHIF-1αの発現とピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ-1(PDK-1)の発現の変化をPCR,ウェスタンブロット法で調査した。その結果,いずれの細胞株においてもL-NMMA投与により一酸化窒素の代謝産物である亜硝酸塩の培養液中の濃度は著明に低下し,HIF-1α発現・PDK-1発現は有意に抑制され,これらの影響はH3255細胞株でより顕著であった.また放射線感受性については,フローサイトメトリーにより評価を行ったところ,放射線照射とL-MMA投与によりA549ではアポトーシス分画が40%に,H3255では21%に増加したが,コロニー形成法で細胞生残率を評価するとL-NMMA投与による放射線増感効果はみられなかった.これらの検討から,YC-1,L-NMMA投与によりHIF-1αの発現は抑制されるが,急性期の低酸素環境下においては,HIF-1αの発現は放射線感受性に直接的には関与していない可能性が示唆された.
|