2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト肺線維症の進展における上皮間様転換機構と肺癌発生への関与
Project/Area Number |
22791315
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
波呂 祥 九州大学, 医学研究院, 助教 (90546558)
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Keywords | 原発性肺癌 / 上皮間葉転換機構 / 胚線維症 / Brachyury |
Research Abstract |
肺線維症における肺癌の発生およびその進展にTGF-β1を中心とした上皮間葉転換機構(Epithelial-mesenchymal Transition ; EMT)の関与が指摘されているが、肺線維症に関する研究は、ヒトにおけるEMT機構に関して詳細な解析はほとんど全く行われていないのが現状である。 1、我々は、肺綜維症合併肺癌症例のヒト肺標本を用いて、同一肺葉内より、正常部、線維化部、癌部のEMT関連遺伝子の発現を調べた。TGF-β1, TGF-β2, TGFβ-3, Snail, Sip1, Twist, E-cadherin, N-cadherin, Vimentin遺伝子の9つの遺伝子の発現はreal time RT-PCR法にて評価を行った。 まず肺線維症合併肺癌症例において非線維化部および線維化部に有意差を認めた遺伝子は存在しなかった。癌部は非線維化部および線維化部と比較して、E-cadherinnの発現は上昇し,TGF-β2、Vimentin、Snail、Sip1の遺伝子の発現は減少していたが、コントロール肺も同様の傾向を示しており、有意差は認めなかった。 また、肺線維症合併肺癌の癌部と、肺線維症非合併症例の癌部とにおいて発現を比較したが、肺線維症合併肺癌において、上皮間葉転換機構の関与を積極的に示唆するような結果は得られなからた。 2、次に肺線維症の肺癌発生への関与の検討に際し、原発性肺癌切除症例104症例より開始した。肺線維症合併した4症例は、非合併症例100症例と比較し、全生存期間は中央値93ヶ月に対し、41ヶ月と予後不良(p=0.0227)であることを確認した。次にEMT関連遺伝子Brachyuryに着目、mRNAおよびタンパクの発現に関してqPCR法による定量および免疫組織化学染色法にて検討した。同遺伝子のmRNA高発現症例は全生存率および無再発生存率が有意に低かった(それぞれp=0.0254,0.0298).特に、IL-8およびSlugの発現促進およびE-cadherinの発現抑制機序によるリンパ節転移を介して予後不良となることが示唆されたが、肺線維症合併の癌部のmRNA発現量は、非合併症例の癌部と比較し、むしろ有意に低く(p=0.0043)、タンパクの発現の比較でも有意さは得られなかった(p=0.0532)らこれらの解析結果からEMT関連遺伝子Brachyuryを肺線維症の予後不良の原因として関連づけることはできず、肺線維症における肺癌発生の過程には他のメカニズムが存在することが予想された。
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