2012 Fiscal Year Annual Research Report
難治性疼痛へのガンマナイフ照射による鎮痛効果発現メカニズムの解析
Project/Area Number |
22791358
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
矢ヶ崎 有希 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (90392422)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神経科学 / 難治性疼痛 / 鎮痛 / ガンマナイフ |
Research Abstract |
臨床では癌性疼痛患者において、下垂体へのガンマナイフ(GK)照射により鎮痛効果が得られることが確認されているが、その鎮痛効果発現メカニズムは不明な点が多い。本研究は、ラット下垂体へGK照射を行い、行動学的・組織化学的・分子生物学的に解析することで、ガンマナイフの機能的な効果の機序の解明を目指す。 本年度はまず、ガンマナイフ照射を行う疼痛モデル選定のための基礎実験を行うこととした。 【方法】慢性神経因性疼痛および慢性炎症性疼痛モデルラットを作製し、下垂体前葉の非内分泌細胞であるマクロファージ(Iba-1陽性細胞)とFolliculostellate cell(S100陽性細胞)の形態変化を中心に検討した。また下垂体のIL-1β産生量をELISA法により検討した。 【結果】①慢性炎症性疼痛モデルラットの下垂体前葉ではIba-1陽性細胞の増加および形態変化が認められたが、慢性神経因性疼痛モデルラットでは認められなかった。両モデルともS100陽性細胞には細胞数の増加および形態変化などの変化は認められなかった。②下垂体のIL-1β発現量が慢性炎症性疼痛モデルラットでは増加することが明らかとなった。この変化は神経因性疼痛モデルラットでは 起こらなかった。 【考察】慢性疼痛でも炎症性と神経因性で下垂体の反応が全く異なることが明らかとなった。癌性疼痛は炎症を伴うことから、癌性疼痛患者の下垂体でもIL-1βの発現上昇が起こっていることが予想される。IL-1βにおいては、低用量のIL-1脳室内投与によって痛覚過敏を惹起し、逆に高用量は鎮痛作用を示すという、二相性の疼痛制御が報告されている。今後、下垂体のIL-1βの発現量と脳内のIL-1βの発現量および疼痛行動との関連に着目し、ガンマナイフ照射後の変化を検討することが作用機序解明の手掛かりに繋がる可能性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では本年度は疼痛モデルラットへのガンマナイフの照射を中心に実験を行う予定であったが、慢性疼痛モデルにおける下垂体の反応は不明な点が多いため、疼痛モデル選定のための基礎実験を行った。 ガンマナイフ照射によりマクロファージなど免疫系が賦活化されることは明らかであり、下垂体への照射によっても同様の変化が起こることが予測される。近年、末梢炎症や侵害受容により産生される炎症性サイトカインは末梢だけでなく脳においても産生され、痛覚感受性を修飾していることが示唆されている。IL-1βにおいては、低用量のIL-1脳室内投与によって痛覚過敏を惹起し、逆に高用量は鎮痛作用を示すという、二相性の疼痛制御が報告されている。以上より、下垂体へのガンマナイフ照射によるマクロファージ・ミクログリアの集積、それに伴うサイトカイン産生などが鎮痛効果に関与している可能性が考えられる。そこで、各種疼痛モデルラット下垂体のサイトカイン産生能のある細胞に着目し基礎実験を行うこととした。 結果、慢性神経因性疼痛ラットと慢性炎症性疼痛モデルラットでは下垂体のサイトカイン発現量や非内分泌細胞(Iba-1陽性細胞)の形態が全く異なることが明らかとなった。 以上より、研究計画はおおむね順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は前述した目的を達成するために、引き続き以下の解析を行う予定である。 1)【疼痛モデルにおけるIba-1陽性細胞に着目した下垂体・視床下部の組織学的解析】これまでの研究で、ガンマナイフのラット下垂体への照射により、ガンマナイフ照射後の下垂体においてIba-1陽性細胞の細胞数の顕著な増加がみられることが明らかとなった。また、基礎的研究において、炎症性疼痛時に細胞数の増加および形態変化がみられる事が明らかとなった。これら下垂体の変化と視床下部ミクログリアとの関連は明らかになっていない。各種疼痛モデルラットを用いてミクログリアおよびアストロサイトの形態変化に着目し、解析を行う。 2)【ガンマナイフ照射による鎮痛効果の解析】引き続き、ガンマナイフ照射後の疼痛行動の変化を、熱刺激による痛覚をUgo Besile 37370を用いたPaw FlickTest (Plantar Test)により、機械刺激による痛覚をUgo Besile 37400を用いたVon Frey Testなどにより経時的に測定し鎮痛効果を評価する。 3)【鎮痛効果発現時における脳脊髄液の解析】IL-1などの炎症性サイトカインが脳室内投与により、鎮痛効果を発現するという知見や、バソプレシン・オキシトシンが鎮痛効果をもたらすという報告が多数あるため、これらの因子の変動がガンマナイフによる鎮痛作用に関与している可能性が考えられる。鎮痛効果発現時の脳脊髄液を採取し、IL-1β、オキシトシン、バソプレシン、それぞれのタンパク質に対し、発現量をELISA又はラジオイムノアッセイにより検討し鎮痛効果と関連がある因子を探索する。
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