2011 Fiscal Year Annual Research Report
胎盤特異的遺伝子導入による妊娠高血圧症候群モデルマウスの作製とその解析
Project/Area Number |
22791528
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
森岡 裕香 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特任助教 (00360264)
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Keywords | レンチウイルスベクター / 妊娠高血圧症候群 / 胎盤 |
Research Abstract |
昨年度の研究により、妊娠高血圧症候群(PIH)の原因候補因子として注目されているsoluble fms-like tyrosine kinase-1(sFLT1)を、レンチウイルス(LV)ベクターを利用して胎盤特異的に過剰発現させることで、PIHの病態を忠実に再現した疾患モデルマウスの作製に成功した。本年度はこのマウスを利用して、PIHの発症メカニズム解明や治療法開発を目指した研究を遂行し、以下のような知見を得た。 1.Placental growth factor(PGF)がPIH発症に関与する 胎盤ならびに胎児の発育に必須であることが知られているPGFは、FLT1に結合して血管新生作用を示すが、sFLT1は遊離のPGFと結合してアンタゴニストとして働く。このことからPIHモデルマウスでは、過剰に産生されたsFLT1がPGFの働きを阻害することで、異常が引き起こされている可能性が考えられた。そこで、LVベクターを利用して、sFLT1と同時にPGFも胎盤特異的に過剰発現させたところ、母体血中PGF濃度が上昇し、sFLT1の過剰発現に伴うPIHの発症が抑制された。 2.プラバスタチンはPGFの発現を誘導してPIH発症を抑制する HMG-CoA還元酵素阻害剤であり、高脂血症薬として広く使用されているスタチン類は、近年、血管内皮に対する保護作用を有することが示され、さらに、自然流産モデルマウスに対する治療効果も報告されている。そこで、PIHモデルマウスに1日1回プラバスタチンを腹腔内投与したところ、妊娠10.5日目以前から投与を開始することで、妊娠後期のPIH発症が有意に抑制された。プラバスタチン投与マウスでは血中PGF濃度の上昇が誘導されていることが明らかとなり、上記1.に示した機序でPIHの発症が抑制されている可能性が強く示唆された。 以上の結果から、PIHの発症原因の1つとして、胎盤からのsFLT1の過剰発現と、それに伴うPGFの機能阻害が関与することが明らかとなり、プラバスタチン投与により病態を予防・改善できる可能性が示された。
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