Research Abstract |
大脳皮質一次味覚野は島皮質に存在し,視床核から味覚情報に関する投射を受けている。味覚嫌悪学習などの高次味覚情報処理にはこの視床核からの投射に加えて,情動を司る扁桃体からの入力等が重要な役割を果たしていると考えられている。本年は視床核,扁桃体から入力を受けた時の島皮質における興奮伝播の時空間的様式や,その統合様式を明らかにする目的で,島皮質に投射している部位を電気刺激した際に島皮質で認められる興奮伝播について検討を行った。神経トレーサーを用いた検討から,視床核,扁桃体だけでなく反対側の島皮質とも密な連絡を認めた。そこで刺激部位は,視床核,扁桃体,反対側の島皮質の3か所とした。神経活動は,大脳皮質に膜電位感受性色素(RH-1691)を負荷し,実体顕微鏡にCCDカメラを搭載した光学計測システムを用いて光学的に記録した。神経活動の伝播を誘発するため,刺激用同心円電極(500kΩ)を前述の3か所もしくは観察野の島皮質表層に刺入し,電気刺激(50Hzで5回連続刺激)を行った。その結果,視床核を刺激した時に発生する興奮伝播は味覚情報を処理するとされる不全顆粒皮質を中心に興奮が発生し,その後特に吻尾側方向に拡がる様子が観察された。反対側の不全顆粒皮質を刺激した際には,視床核に対する刺激の時と同様に,不全顆粒皮質を中心とする興奮と吻尾側方向に拡がる反応が観察された。また,反対側の島皮質における刺激部位を背側から腹側に移動させることで,観察側でも同様に背側から腹側に反応の中心部位が移動することが認められ,このことから右側と左側の島皮質の間には左右対称的な機能的結合が存在することが示唆された。一方で,扁桃体を刺激した際の島皮質における興奮は不全顆粒皮質の腹側に拡がる無顆粒皮質の領域が中心となっており,興奮伝播の広がりは上記の2か所と比べて個体差が大きかった。また,視床核と扁桃体を同時刺激すると,視床単独刺激と比較して,応答面積が増大するものと減少するものがあった。
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