Research Abstract |
咀嚼・嚥下運動時には,食品の粉砕・食塊形成や咽頭から食道への移送など,多くの場面で舌の機能が果たす役割が大きい.また,咀嚼機能の衰えた摂食・嚥下障害患者には残された舌機能を期待したゼリー食などが提供されている.そこで,本研究では様々な量・濃度のゲル試料を舌で押しつぶして摂食した場合の摂取動態の変化を調べることとした. 被験者は,若年健常有歯顎者8名とした.舌と口蓋との接触様相を舌圧センサシートシステムにて,咽頭への送り込みを嚥下内視鏡(以下,VEとする)にて同時記録した.被験試料として液体および3種類の濃度のゲル化剤を使用し,それぞれ1・3・5・10mlの計16種類のサンプルを用意した.被験者には,口腔内に取り込んだ試料を歯で咀嚼することなく舌で押しつぶして摂取するよう指示した.測定はすべての試料につき2回ずつ行い,順序はランダム化した.舌圧波形から押しつぶし回数,VEから嚥下回数と嚥下反射惹起時の食塊の位置を計測した.さらに,VE下でのホワイトアウト開始である嚥下開始時を0として,舌圧・VEの各イベントを時系列上で分析した. ゲル試料の押しつぶし摂取時には,比較的短く多峰性の押しつぶし時舌圧とそれに続く単峰性もしくは2峰性の嚥下時舌圧が認められた.嚥下時舌圧は,ホワイトアウト開始前に発現し,ホワイトアウト開始前後に最大値に達した後,ホワイトアウト中に消失した.ゲル試料の濃度は,押しつぶし回数や押しつぶし時舌圧・嚥下時舌圧に影響を与えており,摂取量は,嚥下回数や押しつぶし時舌圧に影響を与えていた.また,ゲル試料は液体と比較してホワイトアウト時間の変化が少なくなっており,これらの結果はゲル試料の硬さ・凝集性・付着性といった物性が影響しているものと思われた.さらに,ゲル試料摂取時には,摂取量が増えると口腔・咽頭移送時間は延長し,早期流入や嚥下前誤嚥のリスクを高める可能性が示唆された.
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