Research Abstract |
本年度は,簡易型嗅覚検査キットOpen Essence (OP)を用いた嗅覚異常の評価を行い,聞き取り形式による調査とOPによる調査の一致率を検討した.また,栄養状態との関連の解析に取り組んだ. 抗癌剤が投与された癌患者94例よりデータを得た.OPにより嗅覚異常と判定された患者は36%であり,聞き取り形式では25%であった.このことから,聞き取り形式の調査では,嗅覚異常に気づいていない患者を見過ごす可能性があることが明らかとなった.嗅覚異常の発現リスクが統計学的に高い化学療法レジメンは特定できなかったが,パクリタキセル,ゲムシタビン,ペメトレキセド,セツキシマブ+イリノテカン併用療法を行った患者では30%以上の患者で嗅覚異常がみられた.これらの化学療法レジメンを施行する患者では,嗅覚異常のモニタリングを行う必要があることが示唆された.栄養状態の評価として,当初は,皮下脂肪の厚み,腕周囲径などの計測に取り組んだが,本研究の対象とした進行癌の患者から,上記による栄養状態の評価を行うことを拒絶されることが多いため,通常診療で得られるデータの中からBMI,血中総タンパク質,血中アルブミン値で代用して栄養状態を評価することとした.その結果,OPで嗅覚異常と判定された患者のうち,嗅覚異常の自覚症状のない患者では,自覚症状のある患者と比較して,BMIと血中総タンパク質量が有意に低下していた.一方で,抗癌剤による食欲低下は,嗅覚異常の自覚のある患者で高い傾向がみられた(50%vs31%).これらのことから,嗅覚異常を自覚している患者の半数は食欲の低下も自覚しており,自発的に食事内容の工夫をすることで,食事による摂取カロリーが維持されたことが推察された. 本研究を通して,嗅覚異常は抗癌剤により誘発されやすい副作用の一つとして認識する必要があり,その自覚の有無が栄養状態に影響をおよぼす可能性があることが示唆されたことは意義あるものである.
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