2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22810024
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 機関研究員 (10582653)
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Keywords | 文化人類学 / 中央アジア / 宗教復興 / イスラーム / 越境 / ポスト社会主義 |
Research Abstract |
中央アジアの多文化社会における宗教復興メカニズムを、人類学的視点から明らかにするという全体構想に基づき、現地調査、文献調査、フィールド資料(映像含む)の分析を実施した。 1.モダニティと宗教の歴史的動態に関しては、19世紀から20世紀初頭にかけての中央アジア史料集成『トルキスタン集成』の調査を行い、社会主義的近代化をへた今日の宗教実践と比較検討して口頭発表した。さらに、現代のカザフ村落社会に生きる人々が、口頭伝承による近代化以前の祖先の歴史および宗教実践を、死者儀礼をとおして表象する過程を分析し、英語論文として発表した。 2.中央アジア多文化社会のエスニシティと宗教実践に関して、多民族都市アルマトゥとカザフ村落を対比させつつ、子どもの誕生と成長にともなう宗教的儀礼の実践を分析した。その結果、社会主義経験の差異がエスニシティと宗教実践の意味づけに大きな影響を与えていることが明らかとなった。この成果の一部は、図書(ブックレット)として一般向けに刊行した。 3.越境空間の拡大にともなう宗教復興のローカル/グローバルな展開に関して、ソ連崩壊前後からのイスラーム政策、地域社会に生きる人々の宗教実践、中東のイスラームとの関係性を分析した。その結果として、旧ソ連の反宗教的政策下におかれていた中央アジアが、中東はじめイスラーム世界と広く接続されたことは、世界規模のイスラーム復興を加速させたかにみえるが、実際にはローカルな信仰実践をイスラームの文脈により理解し正統性を主張するプロセスでもあることが明らかとなった。この成果はCentral Eurasian Studies Societyおよび民博共同研究会で口頭発表しており、論文発表予定である。 以上の研究成果は、社会主義的近代化と現代におけるイスラーム復興の関係性、多文化社会における他者との共生、国民国家の枠組みを越えて再編される宗教・民族・地域の連関の解明に寄与する意義をもつ。
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