2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22810024
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
藤本 透子 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 機関研究員 (10582653)
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Keywords | 文化人類学 / 中央アジア / 社会主義 / イスラーム / 宗教復興 / 越境 / 儀礼 |
Research Abstract |
中央アジアでは、社会主義体制から移行後20年間に、旧ソ連国境を越えた人・モノ・知識の移動が急速に増大した。その範囲は近隣諸国のみならず、東アジアから中東まで広がっている。越境の拡大の中で宗教が復興していくメカニズムを人類学的視点から解明する全体構想に基づき、現地調査・データ分析・成果発表を行った。 1.国境による地域社会の分断と、国境を越える展開するイスラーム:モンゴル西部で現地調査を行い、ソ連・中国・モンゴルなど近代国家の成立によるカザフ人ディアスポラの成立、カザフスタン独立後のディアスポラの「帰還」、カザフ人の移動とイスラーム動態の関係性について、データを収集・分析した。中東諸国との関係構築について複数の国家のカザフ社会を比較検討した結果、政府機関及び民間団体による関係構築のあり方に国による相違が見られる一方、伝統をイスラームの教義に照らして再解釈しローカルな宗教実践の正当性を主張する現象は共通することが明らかになった。この成果は、アメリカ人類学会で報告し英語論文を投稿中である。 2.宗教復興にみられる越境性と地域性:シャマニズムや仏教など他宗教の事例と対比させつつ、社会主義を経験した地域における宗教動態を分析した。その結果、越境性と地域性という相反する要素が、宗教復興に重要な役割を担っていることが示された。この成果は、民博共同研究会で報告し、単著にまとめた。また、第46回日本文化人類学会に分科会「社会主義をへた宗教の再構築」地域社会の分断/再編と越境からのアプローチ」として申請し採択された。 本研究は、国境を越えて展開する中央アジアの社会・文化動態を、宗教実践を中心に明らかにしたものである。その意義は、社会主義的近代化とイスラーム復興の関係性、国民国家の枠を越えて再編される地域社会の動態、グローバル化が進展する現代における宗教の再構築メカニズムの解明に寄与する点にある。
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