2010 Fiscal Year Annual Research Report
パーリ註釈文献と北伝資料の比較分析による部派仏典の伝承史的研究
Project/Area Number |
22820010
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 紀寿 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (40431829)
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Keywords | 三明説 / 修行論 / 仏伝 / 馬鳴 / 法華経 / 三乗 |
Research Abstract |
本研究は、五世紀にスリランカで編纂されたパーリ註釈文献と五世紀以前にインドで成立した北伝部派資料(サンスクリット写本、漢訳資料、チベット訳資料)を比較研究することによって、「伝承史」という視点から五世紀以前の部派仏教を描き直すことを目的としている。今年度の研究成果をまとめると以下のようになる。 第一に、初期仏典において解脱(成阿羅漢・成仏)に関する伝承は四禅三明説など複数存在していた。第二に、部派文献においては修行論を説く作品で修行者が四諦を認識して阿羅漢に成る過程が説かれ、仏伝作品で菩薩が縁起を認識して仏陀と成る過程が説かれる傾向は、諸部派の成立後、遅くとも二世紀に、少なくとも北インドで存在し、遅くとも五世紀初頭にはスリランカに及んだ。この傾向は、部派を越えてインド各地へ広まり、おそらく七世紀までインドで継続していたと考えられる。第三に、『法華経』等の大乗仏典は、三乗説において、四諦を声聞の認識(声聞乗)として捉え、縁起を独覚の認識(独覚乗)として捉えた。この種の三乗説は、三世紀にはじめて確認できるため、大乗仏典は三乗説の中に部派文献における仏陀の智慧と菩薩の智慧を批判的に組み込んだと考えられる。東アジアでは特に羅什訳の『法華経』と『大智度論』を通して声聞と独覚の意味を決定づけることとなった。 以上の成果によって、部派文献における智慧に関する伝承の分析に基づき、初期仏典から大乗仏典への思想的展開の一側面を明らかにした。
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