2010 Fiscal Year Annual Research Report
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22820011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大愛 崇晴 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教務補佐員 (70587980)
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Keywords | 音楽理論 / 科学革命 / イギリス / 王立協会 / トマス・サモン / 音律 / トマス・ウィリス / 脳神経科学 |
Research Abstract |
本研究課題は、17世紀科学革命期における英国の音楽理論をロンドン王立協会との関わりから解明しようとするものである。初年度にあたる平成22年度は、美学史的な関心から、当時の聴覚の捉え方と音楽実践との関係性を中心に調査し、以下の2点において有意な研究成果を得ることができた。(1)トマス・サモン(1648-1706)の音律に関する理論:サモンは職業音楽家ではなかったが、当時の中産階級における音楽愛好熱の高まりを背景に、愛好家でも読み易い独自の記譜法を提唱するなど、音楽実践の領域に深く関わっていた。彼は当時普及しつつあった平均律に異議を唱え、純正律の使用を推奨する。そして、その実践のためにヴィオルのための独自のフレットの配置を考案し、王立学会の会合で実演する機会を得ている。サモンは純正な音程による聴覚の陶冶を意図していた。(2)トマス・ウィリス(1621-75)による脳解剖と音楽的能力:王立協会会員で医者であったウィリスは、脳をはじめとする神経系の解剖学の先駆者として重要だが、著書『脳の解剖』において聴覚機能と脳の関係について論じ、その中で音楽的記憶の能力が先天的な脳の様態に起因することを指摘する。この知見は同時代の感性論にも影響を与え、当時の刊行物から、神経系と聴覚的感性の因果関係についての言説をいくつか認めることができた。これらの研究成果は、18世紀に台頭した美の判定能力としての趣味をめぐる議論の形成過程を、聴覚という観点から見直す上で大きな手掛かりを与えてくれるものと思われる。
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Research Products
(1 results)