2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22820012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
原田 敦史 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教 (90584657)
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Keywords | 中世文学 / 軍記物語 / 平家物語 |
Research Abstract |
「読み本系」と「語り本系」に分かたれる『平家物語』諸本は、現存諸本においてはその二大系統いずれもが、より古い段階からそれぞれ分岐したものであり、それら諸本の流動・展開の様相を、本文レベルの実証と文学としての「読み」とを連関させて考察するのが、当研究課題の方法である。今年度に発表した論考「屋代本『平家物語』における維盛関連記事の形成」においては、語り本の代表として屋代本を用いつつ、巻十の平維盛に関する記事を対象に上記の観点に基づく検討を行い、語り本は読み本系諸本の記事の再構成から成っていること、ただし、従来注目されてきた延慶本との関係のみでは語り本の成立を論じることはできないということ、当該記事に関しては語り本の中では屋代本が、古い形を残しているのではないかということ、等を明らかにした。加えて、その流動の背景に、仏教的に筋道の立った読み本系的な形から、情緒的な文脈へと傾斜していく点に、語り本の文学的特質があるということも論じている。本文レベルで語り本系が読み本系の下流に立つことが多いということはすでに指摘されているが、両者の関係を文学的な特質の問題として捉え返す視点を用意したところに、本研究の進捗がある。 同様の考察は巻五から巻六にまたがる記事に関しても進めており、近時公開する予定である。その中で、「王法の歴史語り」という枠組みに着目して、諸本の流動を把握するという、本研究が当初企図していたより大きな視点に基づいて、『平家物語』諸本流動についての見取り図を提示できると考えている。
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