2011 Fiscal Year Annual Research Report
破壊と創造-歴史的破壊の経験が19世紀フランス文学にもたらした影響の考察
Project/Area Number |
22820013
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
数森 寛子 東京大学, 総合文化研究科グローバルCOE「共生のための国際哲学教育研究センター」, 特任研究員 (10588239)
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Keywords | 仏文学 / 19世紀 |
Research Abstract |
本年度の研究は、19世紀フランスの作家における歴史思想と芸術的創造との関係を明らかにすることを目的として行われた。とりわけ、ロマン主義時代の作家たちの歴史観の形成に、フランス革命とナポレオン帝国の崩壊という二つの異なるカタストロフィの経験が、いかなる影響を及ぼしたのかを明らかにすることを目論んだ。研究にあたっては、フランス革命とナポレオン帝国の崩壊という二つの異なる歴史的破壊の経験に焦点を当てた。(1)19世紀前半の時代の文学における終末論的主題の流行には、歴史的断絶としてのフランス革命の経験が密接に関連していることに加え、ナポレオン帝国の崩壊による英仏の文化交流の再開が、フランスに大洪水や最後の審判を題材とした作品群がもたらされる重要な契機となっていたことを考察した。(2)作家たちは、歴史的破壊の経験としてのフランス革命をいかに表象したのか。彼らにとって、革命を描くことにはいかなる意味があったのか。カタストロフィを表象するという試みは、果たして成功したといえるのか。これらの問いから出発し、ヴィクトル・ユゴーの小説および詩作品の中で、フランス革命に直接的、間接的に関連する作品を取り上げ、それらを創作過程および出版形態とあわせて精査した。これにより、ユゴーがフランス革命を主要な主題として設定した詩作品群の大半が、当初においては詩集の根幹として構想されているにも関わらず、未完のまま死後出版されるか、作者本人によって分割され、原型を残さない形で別の作品の中に組み込まれていることが明らかになった。この事実は、19世紀文学におけるカタストロフィの表象可能性をめぐる問題を考察する上での、重要な糸口となるはずである。本年度の研究の成果の一部は「文学はカタストロフィを描きうるか-ヴィクトル・ユゴーの場合」東京大学教養学部講義「平和構築論」(2012年12月2日東京大学駒場キャンパス)にて公表した。
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