2010 Fiscal Year Annual Research Report
イタリアの精神保健実践における生態学的インタラクション環境の文化生態人類学的研究
Project/Area Number |
22820036
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松嶋 健 京都大学, 人文科学科学研究所, 研究員 (40580882)
|
Keywords | 精神保健 / 文化生態人類学 / 生態学的インタラクション環境 / 医療人類学 / イタリア |
Research Abstract |
2010年10月から11月にかけての約1カ月間、イタリアに滞在し現地調査を実施した。訪問先は、ウンブリア州、カンパーニャ州、プーリア州、バジリカータ州、シチリア州の各精神保健局や精神保健センター、デイセンター、グループホーム等であり、そこでフィールド調査およびインタビュー調査を行なった。そこで収集したデータは現在鋭意分析中であるが、現在までに明らかになってきたことがいくつかある。それは、イタリアにおける公立精神病院の全閉鎖という出来事からイメージされる極端な「脱施設化」というのは実状とは異なっており、精神病者が単に病院から外に出て地域で個別にリハビリテーションを行なうというのではなく、医療スタッフも含めて全ての人が外に出ることで、地域に病院とは異なる関係性の場を創出し、そこでのインタラクションを通してスタッフの側も自らのやり方や考え方を問い直していく「脱制度化」という文脈の中に精神病院の廃絶という出来事が置かれているということである。これは精神病院に代表されるような、一つの空間を一つの機能に特化させていくような近代の考え方の背景にある「何もない空間の中で個々の主体が行為している」という前提を掘り崩す。代わって、われわれは常に他の人々や環境に包囲されており、そのような生態学的環境の中でインタラクションを行ないながら、集合的に何事かを決定しているという事態が浮き彫りになるとともに、「責任能力のある自由な決定主体」という近代の人間の前提を再考に付すことになる。今後はこの点に関して、「決定」という事態がどのような集合的なプロセスの中にあるのかを明らかにしていくとともに、主体の範囲というものが、異なった種類の行為的テリトリー化を通してどのように伸縮するものであるかを検討する必要があろう。
|