2011 Fiscal Year Annual Research Report
文化財に含まれる膠及びコラーゲンのプロテオミクスによる解析法の開発
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22820042
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
河原 一樹 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 特任助教 (60585058)
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Keywords | 考古学 / 膠 / コラーゲン / プロテオミクス / 質量分析 |
Research Abstract |
本研究では、文化財に含まれる膠の主原料であるタンパク質コラーゲンの質量分析による解析法を確立し、そこから得られるアミノ酸配列情報から原料動物を同定することで、文化財の産地や製造法、動物利用の実態などの考古学的情報を解読することを目的としている。平成22年度の研究において、文献資料を基に、膠の原料となった可能性のある動物種を調べ挙げ、牛、馬、豚、驢馬、鹿、鰾(ニベ)など幅広い動物種が原料として用いられていることを明らかにした。また、それらを原料とした膠を収集し、質量分析を行うことで、標準質量スペクトルライブラリーを構築した。その際には、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化タンデム飛行時間型質量分析装置を使用し、およそ数mg程度の試料で膠の分析が可能であることを示した。 平成23年度は、確立した方法論の実際的応用として、古梅園所蔵の江戸時代(1700年代)に製造された墨に含まれる膠や、大韓民国通度寺博物館より提供を受けた1600年代に製造されたタンカと呼ばれる仏画に使用された膠原料の同定を実施し、どちらも牛の皮を主原料としていることを明らかにすることが出来た。更に、平城京の発掘調査から出土した墨片(およそ1mg)の分析を実施し、土壌環境下で1000年以上が経過しているにも関わらず、墨片の中に膠の原料となったコラーゲンのペプチドが分析可能な状態で存在していることを示すことが出来た。本成果は、従来まで経年劣化やカビなどによる分解により腐敗・消失してしまうと予想されていた古代の文化財に含まれるタンパク質の分析可能性を示す結果である。今後、幅広い地域、年代に渡る文化財を収集、分析することで、文献資料との綿密な照合結果と併せて古代の製造史、交流史、動物利用に関する知見が得られるだけでなく、仏像や壁画などに関しては修復の際の材料の選択において有益な情報を与えることが出来ると予想される。
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Research Products
(10 results)