2010 Fiscal Year Annual Research Report
台帳を中心とした天明から享和年間における江戸歌舞伎の研究
Project/Area Number |
22820058
|
Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
光延 真哉 白百合女子大学, 文学部, 講師 (70586388)
|
Keywords | 国文学 / 歌舞伎 / 江戸 |
Research Abstract |
平成22年度は、早稲田大学演劇博物館や国立国会図書館といった所蔵機関において、初代桜田治助が立作者時の台帳を中心に書誌調査を行い、本研究がテーマとする、台帳における書き場の割り振りの問題、および添削の問題について有益な知見を得ることができた。調査は継続して行い、その成果については、次年度に発表する予定である。 一方、当該年度では、『日本文学』59巻11号(2010年11月)において「『東海道四谷怪談』の初期構想-番付のカタリを読む-」と題した論考を発表した。「カタリ」とは、番付等で示される大名題の上部に付された文章で、作品の内容を掛詞や縁語等の修辞を用いた七五調の韻文で綴ったものである。台帳の執筆に先だって立作者の責任において作成されるため、作品の初期構想を窺うことができるものであるが、今日の歌舞伎研究において、その分析という研究方法は、必ずしも盛んに行われている訳ではない。同論考では、試みに四代目鶴屋南北作『東海道四谷怪談』の役割番付のカタリを採り上げ、南北が実録の『四谷雑談』の祝言の場面に基づきつつ、蛇の怪異の連想から、お岩の怪談と小幡小平次の怪談を結びつけるという初期構想を持っていたこと、そして、こうした当初の設定が、神田川に戸板に打ち付けられた男女の死骸が流されるという実際の事件をヒントとして、今日見られるような戸板返しの趣向へと変更されたことを指摘した。本論考によって、カタリの分析という手法が、台帳を読むだけでは分からない情報をも明らかにし得ることを示せたと考えている。
|