2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22820068
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
上原 作和 明星大学, 人文学部, 教授 (00581050)
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Keywords | 『源氏物語全註釈』 / 本文批判 / 歴史的基準 / 『光源氏物語傳來史』 / 大島雅太郎 / 吉見正頼 / 本文解釈史 / 『人物で読む源氏物語』 |
Research Abstract |
平成23年度は「『源氏物語全註釈』のための基盤形成」の最終年度として、「研究の目的」を達成するべく、特に重要写本の来歴を通して、本文批判の「歴史的規準」の策定に重点を置いた。その成果が武蔵野書院から11月に刊行した『光源氏物語傳來史』である。本書によって、『源氏物語』研究において最重要視されて来た大島雅太郎氏旧蔵本『源氏物語』の霧しい本文補正や書き入れが、吉見正頼の時代に行われていたことを実証したことは特筆される成果である。今まで『源氏物語』の本文校訂は、校訂者の長年に亘る『源氏物語』観に立脚したいわば感性によってなされてきた職人技であった。したがって、校訂規準が曖昧なまま行われていた傾向にあった。そこにひとつの明確な規準を敷設したことで、吉見正頼以前の本文を重視する方向性が固まった。 また、「研究の目的」、「研究実施計画」に添って『人物で読む源氏物語』全20巻によって行った註釈の補訂を行い、その註釈データは最新の見解に書き改められた。『源氏物語』の本文解釈史は、広汎多岐に渡る論争があり、その論争の当否を見定める先行論文の検討を漸次行いつつの補訂ではあったが、上原自身が学説史の当事者である「夕顔」巻、「朝顔」巻の解釈については、これに関する批判論文が存在し、さらに第三者による検証も行われたが、いずれも決着を見ていない。これらはいずれ、上原自身の最終見解を以て、註釈に新見解として加えることとなろう。 かくして、「『源氏物語全註釈』のための基盤形成」は、多くの成果を残した。このことは、当年発表の学術論文、単行本によって証されよう。論文は『枕草子』『うつほ物語』に関する論文もあるが、これも『源氏物語』の文学世界と密接な関連を有し、当然、本研究の成果の範疇に加えられるべきものである。
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