2010 Fiscal Year Annual Research Report
プロレタリア文学運動からエロ・グロ・ナンセンスへの〈転向〉者に関する研究
Project/Area Number |
22820076
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
竹内 瑞穂 愛知淑徳大学, 文学部, 助教 (00581224)
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Keywords | 文学一般 / 文化史 / プロレタリア文学 / エロ・グロ・ナンセンス / モダニズム |
Research Abstract |
本年度の研究実績としては、雑誌論文「「流動」する「変態」-谷崎潤一郎「鮫人」の逸脱者イメージ-」(『愛知淑徳大学国語国文』第33号2011年3月)がある。 本研究は、その流行の先端にあったエログロ雑誌群と、それを仕掛けた梅原北明たちを分析し、A.プロレタリア作家/運動家であった北明たちが、なぜエロ・グロ・ナンセンスの旗手へと<転向>したのか、B.それら雑誌では、実際にどのような言説が生産されたのかを、特にセクシュアリティの観点から問うものである。本年度は、主にAの課題を分析するために必要な、『グロテスク』、『文藝市場』、『カーマ・シャストラ』等のエログロ雑誌を収集した。その過程でみえてきたのが、そもそも<このようなエログロ雑誌が受け入れられるようになった土壌>はいかに形成されたのか、という問題であった。 先に挙げた論文は、谷崎潤一郎の「鮫人」(1920年)を題材に、この問題について考察したものである。谷崎の小説のなかでは、「変態」概念の意味的な転倒が生じている。変態心理学や変態性欲学は、いわゆる生権力(M・フーコー)的なまなざしで、逸脱者たちを管理すべき対象として析出ゆく。だがこの作品の逸脱者たちは、逆に種々の規範や管理を撹乱し得る可能性として、ある種のロマンティシズムの対象として構築されていってしまう。こうした「変態」概念の消費のあり方こそが、昭和期のエロ・グロ・ナンセンスにも通底する、逸脱へのロマンティシズムの原型となっていると推察されるのである。 こうした成果からは、エロ・グロ・ナンセンスを支えていた感性が、「関東大震災の急激な都市構造の変化にともなう新たな社会意識」や「明治・大正期の抑圧された儒教的道徳への反抗」(紀田順一郎1995「都市の闇と迷宮感覚」『別冊太陽』88p.4)のレベルにとどまらず、近代の生権力の台頭という問題とも密接に絡み合っていることがみえてこよう。
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Research Products
(1 results)