2011 Fiscal Year Annual Research Report
プロレタリア文学運動からエロ・グロ・ナンセンスへの〈転向〉者に関する研究
Project/Area Number |
22820076
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
竹内 瑞穂 愛知淑徳大学, 文学部, 助教 (00581224)
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Keywords | 文学一般 / 文化史 / プロレタリア文学 / エロ・グロ・ナンセンス / モダニズム |
Research Abstract |
今年度の研究成果としては、日本近代文学会例会(於:お茶の水女子大学)での研究発表「エログロへの<転向>-梅原北明『殺人会社』の社会批評法-」がある。 本研究全体では、消費文化の隆盛と、社会主義・国家主義の台頭が錯綜して進行する、1920~30年代の日本社会に登場したエログロ雑誌群と、それを仕掛けた梅原北明たちの思想的変転の意味を問うことを目的としてきた。今回の報告では、北明がその活動初期に書いた小説『殺人会社』(1924)を分析の中心に据え、彼の思想のありようを探った。 そこからみえてきたのは、北明の現状に対する強い危機感と、それを乗り越えるための様々な思考実験が小説内で展開されていたことである。この時期の北明はプロレタリア文学運動に注力し、左翼思想、特にアナルコ・サンジカリズムにひきつけられていたようにみえる。だが、このテクストを見る限り、彼はそれら思想を無批判に摂取していたわけではない。北明はこのテクストのなかで、資本主義の原理を極端なかたちで体現した殺人会社という設定を使い、この主義の可能性と限界を見極めようとしている。そこから導きだされたのは、資本主義を単純に敵視するのではなく、そのシステム(「差異の商品化」)の力を、権力構造に対する抵抗のために転用してゆくという<戦術>であった。そして、そうした<戦術>は、その後の北明のエログロ誌出版の基本方針となってゆく。これらの分析結果からは、プロレタリア文学からエログロへの<転向>が、これまでしばしば論じられてきたような文学・社会的挫折と、そこからの逃避といったネガティヴな見方に収まり切らないことがみえてこよう。この研究により、北明らの<転向>が、同時代の現状に対する、独自の思想的模索のひとつとしても位置づけ可能となり、日本近代文化史・思想史を考える際に、看過できないものであることが明らかとなったといえる。
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